第23話/文化祭:中編・人工授精しましょ♡

「て、輝矢様」

「桐嶋さんって呼べ」

「桐嶋さん、早く出ましょう」

「出たら鳴海がいるかもしれないだろ」

「お化けが出て、おしっこも出ちゃいます」

「どういうこと!?」

「ビックリしたら危険です!」

「耐えろ!」


相当お化け屋敷にビビっている詩音を置いて歩き出すと、詩音は背中にピッタリくっついてきて、動きにくくてしょうがない。

 それにこのお化け屋敷、正直俺も苦手だ。和風の雰囲気に藁の匂い。ホラーに関しては和風が一番怖い。


「あ、あれ本物か?」

「見たくありません!」


通路の先に、不気味な日本人形が置かれていて、近づくのが嫌すぎる。でも進まないと出れないしな。


「行くんですか!?」

「当たり前だろ」

「今ティッシュを用意します」

「うん。よろしく」


もうこのネタはスルーでいいと、俺はやっと学んだ。

 そして、恐る恐る日本人形に近づくと、急に日本人形が浮いて、女の子の不気味な笑い声が聞こえてきた。


「うわぁー!!!!」

「きゃー!!!!」

「走れ走れ!! おい!?」


詩音は俺の背中にジャンプし、俺は詩音をおんぶしながらお化け屋敷内を走り回った。

 いつも狭く感じていた教室が、こういう時だけ広く感じる。

 そして、いくつもの怖い仕掛けを乗り越えて、やっと出口が見えてきた。


「出口だ! きゃー!!!!」

「女の子みたいな悲鳴ですね」


出口の扉を開けると、目の前に笑顔の鳴海が立っていて、俺は情けない悲鳴をあげてしまった。


「安心して。美嘉ちゃんに背中掴まれてるから」

「美嘉?」

「やぁ」


美嘉は鳴海の後ろに立っていたが、小さくて見えなかった。


「瀬奈ちゃん、行くよ」

「お、覚えててね桜羽さん」

「はにゃ? 忘れちゃったにゃ」

「煽るな! てか降りろ!」


鳴海は詩音に襲い掛かろうとしたが、美嘉が引っ張って、鳴海を連れて行ってくれた。


「あの」

「いいから早く降りろ」

「ビックリして少し漏れたかもしれません」

「尚更降りろ!!!!」


詩音を無理矢理背中から下ろすと、詩音は股の部分をポンポンっと軽く触った。


「大丈夫みたいです」

「よかった‥‥‥本当によかった‥‥‥あっ、そうだ、お小遣い貰っていいか?」

「家にあります」

「おいおい、んじゃ、今幾ら持ってる?」

「三千円ぐらいですかね」

「三千円あれば楽しめるか! よし、なにか食べようぜ!」

「はい。なににいたしますか? 買ってきます」

「一緒に店を周るんだよ。文化祭でお留守番とかつまらなすぎだろ」

「かしこまりました。三年生の教室でクレープを売っていましたよ」

「いいね! 三階に行こう!」


さっそく詩音と三年生の教室にやってくると、想像より色んな種類のクレープを売っていた。

 そんな中で詩音は、列に並びながら背伸びをして、自分の番が今か今かと待っている。


「普段がクールな分、感情が分かりやすくていいよな」

「な、なんのことですか?」

「嬉しいとか、ワクワクしてるとか、すぐに分かる」

「そんなことありません」

「そんなことある」

「ありませんよ。私はクールビューティーですから」

「次のお客様!」

「はーい!」

「めっちゃ笑顔で明るい返事しちゃってますけど? クールビューティーさん?」

「やっぱりイチゴですかね。バナナはエッチで好きですけど」


聞いちゃいねぇな。


「俺はバナナクレープでお願いします」

「かしこまりました!」

「私はちょっと大きめな乳首みたいなブルーベリーでお願いします」

「は、はい‥‥‥」

「いー!」


詩音の耳を引っ張って、静かに教育完了。

 すぐにクレープが出来上がり、先輩に冷ややかな目で見られながらクレープを持って廊下へ出ると、外からなにやら盛り上がる声が聞こえてきて、三階の窓から見下ろしてみた。


「今の時間って、なにやってるんだ?」

「コスプレ大会です」

「あー、コスプレか。ん? 美嘉じゃん」

「自分が探偵だと隠してるのに、探偵のコスプレですか。可愛いですね」

「美嘉には甘いよな」

「優しく、守ってあげなきゃいけない。そんな感じがしませんか?」

「まったくしないね。多分それは、詩音が詩音だからだ」

「私が私だから? ですか? 俺の俺とか、俺の息子とか言うように、私の恥部の話ですか?」

「違うわ!!」

「違うんですか。残念です」

「いや、なんでだよ」


それからも久しぶりの会話を楽しみながらミニラーメンを食べて、どこへ行こうか悩みながら理科室の前を通りかかった時、詩音がなにか気になったのか、理科室の中を覗き込んだ。


「理科室はなにやってるんだ?」

「メダカの研究です」

「メダカ? 他行こうぜ」

「それではこれから、人工授精をお見せします!」


理科室の中から聞こえてきた言葉を聞いて、詩音は扉に耳を付けて中の会話を聞き始めた。


「おい」

「で、出ているそうです」

「メダカの子孫を残るための真面目なやつだろ」

「桐嶋さん」

「嫌だ」

「まだなにも言っていませんし、変なことではありません」

「んじゃ言ってみろ」

「私と人工授精しませんか?」

「え!?」

「‥‥‥」

「‥‥‥」


知らない学校の女の子に聞かれて驚かれてしまった。それに、なんでどこか行こうとしないんだよ。気まずいよ。


「あ、あのー‥‥‥このメイド服を着たバカは冗談を言っただけなので‥‥‥」

「へっ、へんたーい!!!!」

「待ってくれー!!」

「桐嶋さん、変態だったんですね」

「お前のせいだろ!?」

「子孫を残すための真面目な話をしていただけです。セックスは受験ぐらい真面目に取り組まなければいけません」

「ハッキリ言うなよ」

「それに桐嶋さんは、いつになったら私を性メイド扱いしてくださるのですか? 私がどれだけ性を勉強したのか、分かっていないのですか?」

「まともに性の勉強した女子高生は、受精を求めたりしない」

「まともな教材ではなかったので、私の性癖もそれなりに歪みました」

「‥‥‥せっかくの文化祭だし、話してないで遊ぼうぜ」

「はい。パンフレットを見て、絶対参加したいと思ったものがあります」

「それ行こう!」

「ありがとうございます。こちらへ」


なにに参加するのか想像もできぬまま詩音について行くと、着いたのはグラウンドの隅で、そこにはなにやら人集りができていた。


「さぁさぁ始まりました! 君も探偵になりたいか! 謎解き物探しゲーム!」

「物探し?」

「これを考えた人は天才」

「あ、美嘉じゃん」

「シッ。ちゃんと聞いて」


探偵ごっこしながら何かを探すって感じか。美嘉が好きそうなやつだ。詩音がやりたがったのは意外だけど。


「参加者の皆さんには、今から一枚の紙をお渡しします! もちろん途中参加もオッケー! それではさっそくルール説明です! 今から、紙に書かれたヒントを頼りに、ある物を探してもらいます! 見事見つけることができた人には、最後に開かれるファッションショーで、ミスグランプリに輝いた人と! なんと後夜祭でダンスを踊る権利が与えられます! あー! 女子のみんな帰らない! 女子生徒がそれを探し出した場合! 有名ケーキ屋の三千円クーポンプレゼント! 参加したい人は近くにいるカラフルなアフロ頭の人達から紙を貰ってスタートだ!! 見つけた人が出たら、放送で終了をお知らせしまーす!」


ケーキ屋のクーポンと聞いて、女子生徒達が群がってしまい、なかなか紙を取りに行けない。


「これは出遅れるな」

「はい、二人とも」

「おぉ! ありがとう!」

「美嘉さん、さすがです」

「じゃ」


美嘉が俺達の分まで紙を貰ってきてくれ、一人で何処かへ走っていってしまった。


「ヒント一、濡らすとヌルヌル度が増す物なーんだ」

「はぁ!? そ、それは、マッ、マ‥‥‥」

「増すと言うことは、少なからず常にヌルヌルするということです。でも乾燥すれば大丈夫なんですかね? でも濡らしたらヌルヌル‥‥‥?」

「いや、だから、マッ、マ‥‥‥」

「魚ですね」

「そう! 魚!」

「ちなみに、桐嶋さんが考えていたものは、常にヌルヌルしません」

「はい‥‥‥すみません‥‥‥」


なんかいつもと逆の立場になってる!!


「中庭に池がありますから、そこへ行ってみましょう」

「てか、ヒント一しか書いてないんだけど」

「次の場所で新しいヒントが手に入るのかもしれません」

「なるほど、行こう!」

「レッツ、ドッピュ!」

「もうフィニッシュじゃん」

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