第11話/仲良しごっこ

「輝矢様、今日から夏服になります」

「え、そうだっけ?」


お互いに学校へ行く準備を済ませて朝ごはんを食べている時にそう言われたが、確かに詩音は夏服だ。


「ワイシャツをアイロンがけして、ハンガーにかけておきましたよ」

「行く前に着替えるよ。にしても、ショートヘアーで夏服だと爽やかでいいな」

「ロングだと爽やかじゃないって、鳴海さんに言っておきます」

「今日から仲良くするんだからダメだぞ?」

「分かってます。それでは先に行きますね」

「おっ、珍しい」

「一緒に住んでない設定なら、一緒に登校しない方がいいです」

「おぉ、確かに。天才だな」

「ふふん♡」


詩音はドヤ顔をしながら家を出て行き、俺も夏服に着替えて、詩音とは時間を置いて家を出た。





そして学校に着くと、すでに鳴海と詩音が仲良さげに会話をしていた。


「あっ、おはよう!」

「おはよう」


さすがの鳴海も、みんながいる教室じゃ普通だな。

 それより、夏服の鳴海にテンションが上がらないのは、下着姿を見てしまったからだろうか。可愛いのに、なんか勿体無い気分だ。


「私達、友達になったんだ!」

「それは良かった。これからも仲良くよろしく!」

「うん! 今日のお昼は二人で食べよう?」

「はい、喜んで」


よしよし、詩音も大丈夫そうだ。





お昼になると、二人はすぐに屋上へ行き、俺は今日から詩音の弁当が無いこともあって、売店にやってきた。

 すると、見覚えのあるフォルムの生徒が、大事そうにクリームパンを抱えていた。


「クリームパン三つと、牛乳ください」

「よっ、探偵」

「ななな! なんで分かった!! いや、違うけど」

「もう遅いわ! 見覚えのあるフォルムだなと思ったんだよ。小さい感じが」

「馬鹿にしないで。今からパンをいっぱい食べて、牛乳も飲んで身長を伸ばすんだから」

「もう手遅れだろ」

「人の努力に口出ししないで」

「そうですよ桐嶋さん。口に出すのは白いので充分です」

「詩音!? なんでいるんだよ!」

「お弁当を作らなかったので」

「ねぇねぇ、白いのってなに? 牛乳?」

「探偵は知らなくていい」


にしても、この探偵可愛すぎない!?小顔で目が詩音に似て大きいのにシャキッとしてるっていうか、クールな感じ!まつ毛も長いし!なんかお人形さんみたいだ!しかも金髪ロング!意外!!


「クリームパンが売り切れてますね」

「探偵が三つも買ったからな。あっ、カレーパンください」

「まず、こんなところで探偵探偵呼ばないで。私の名前は」


名前を聞こうとした次の瞬間、後ろから大河に声をかけられた。


「輝矢! 一緒に食べよ!」

「おう!」


大河に誘われて二人とは別れ、外のベンチにやってきた。

 結局、探偵の名前を聞きそびれたな。


「遂に体育祭始まるね!」

「嫌だねー、ほんと嫌だ」

「なんでさ」

「借り物競走の選手に選ばれたから」

「あー、あれは目立つもんね。一番盛り上がるし」

「俺の中学でも選手は目立ってたからさ。高校の体育祭の盛り上がりも凄そうだし」

「でも頑張ってよ! 借り物競走はポイント高いし! お題で好きな人とか出たら面白いけど」

「そのフラグはマジで辞めてくれ」

「あっ」

「ん?」


大河の視線は屋上に向けられていて、屋上を見ると、鳴海と詩音が手を振っていた。


「あの二人、違和感しかないね」

「え?」

「なんで仲良しごっことかしてるんだろ」

「お、おい。どういうことだ?」

「なんかぎこちなく見えるから。それに僕、鳴海さんと同じ中学だけど」

「おいおいおい!! なんで黙ってた!?」

「言うきっかけも無かったし」

「ま、まぁそうか。んでなんだ?」

「鳴海さんって、なにか可哀想なことがあった人を好きになるというか、ちょっと変わってて、過激派というか、そういう一面を見ちゃったことがあるんだよね。だから、よく輝矢と一緒に居る桜羽さんと仲良くするのはおかしいなって」


大河の奴、やりがるぜ。なかなかの観察眼だな。


「んじゃ、探偵って知ってるか?」

「この学校の?」

「うん」

美嘉みかちゃんでしょ! いい子だよね」

美嘉みかって言うのか。言うほどいい子か?」

「いい子だよ。探偵も遊びでやってるわけじゃないし、美嘉みかちゃんとは小学生の頃からの付き合いだけど、その頃から探偵してるんだ」

「へー、なんで?」

「んー、それは教えてくれなかったけど、真剣な理由みたいだよ」

「なんだそりゃ」


そんなこんなで話しているうちに昼休みも終わり、今日は鳴海も部活で忙しく、放課後になっても、なに事もなく家に帰ってくることができた。


「お帰りなさいませご主人様♡」

「はいはい、ただいま」

「今日は精神的に疲れました」

「お疲れ様。仲良くやれてるみたいでよかったな」

「はい。もう一緒に住んでないと、完全に信じ込んでましたよ」

「よくやった!」

「図々しいですが、ご褒美とかって♡」

「甘いものとか?」

「甘い夜を♡」

「言い忘れてたけど、俺はお前対策に、避妊具を持っていない!」

「ご主人様が持っていないのは、相手がいないからでは?」

「お前がいるだろ!?」

「いやん♡ 嬉しいですぅ♡」

「勘違いするな。それにな、男子高校生は友達から貰ったりで、たいてい財布に一つは入ってるもんなんだよ! 俺はそれをしていないって話しだ!」

「それは友達がいない‥‥‥いえ、なんでもございません」

「大河がいるわ!!」

「大河さんはそういうことに縁がなさそうじゃないですか」

「失礼な奴だな」

「ちなみに、避妊具なら私の部屋に置いてあります」

「そんなもん買うなよ!」

「べ、別に捨てろというのなら捨てますが♡ その場合、メイドである私との結婚を視野に入れていただかないと♡」

「俺は結婚しない!」

「何故ですか?」

「家族を持つと、悲しい最期が必ずくるからな」

「恋人だってそうじゃないですか? たいてい別れます」

「くっ。なにも言い返せねぇ」

「結婚するということですね♡」

「なんでそうなる! そもそも、俺みたいなのに恋愛感情抱く方が稀なのに」

「命令とあらば好きになってあげます♡」

「なにそれ悲しい!!」

「命令ならなんでも聞く私ですが、鳴海さんにご主人様は渡しません」

「なんでだよ。いい感じに付き合う可能性もあるだろ」

「私にはできない授乳プレイをされたらムカつくからですよ!!」

「しねーよ!!!! まったく、毎日毎日こんな大声出してたら、体育祭始まるまで体力保たねぇよ」

「それは大変です。体育祭、頑張りましょうね」

「それなりにな」


体育祭が終わった日の夜は、お子様ランチ。本当は事件解決時点でと思ってたけど、解決なのかどうなのか微妙だったし、体育祭が終わったら絶対に食わせてやろう。

 そんなことを考えていると、詩音はウーパールーパーの水槽を見つめながら、機嫌良さそうにお尻をフリフリし始めた。


「さーて、クパァくん♡ エサの時間ですよ♡ クパァってしてごらん♡ あぁ♡ ちゃんとクパァできて偉いですね♡」


やっぱり食わせるのやめようかな。





こうして俺達は、なんとか写真をばら撒かれる心配も無く、体育祭当日を迎えた。

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