第12話/体育祭:前半・頑張れっ♡
「体育祭スタートでーす!!」
遂に体育祭が始まってしまった。
最初に吹奏楽部の迫力満点な演奏を聴き、紅組と白組に分かれて配置につき、一年生女子の部のバトンリレーが始まった。
そして俺達は、応援もポイントに入るということもあって、全力の応援を始めるが、なかなかのデッドヒートを繰り広げる女子リレーを見て、俺は隣に立つ大河に話しかけた。
「なぁ、大河」
「ん?」
「女子のアンカーって誰になったんだ?」
「紅組は桜羽さんで、白組が美嘉ちゃん!」
「詩音か! 美嘉も早そうだなー。すばしっこいイメージ」
「あっ! 鳴海さんだよ!」
「おぉ」
鳴海かバトンを握って俺達の前を通り過ぎていった。
「輝矢、ウィンクされてたね」
「えっ、全然気づかなかった」
「またまたー、照れなくていいよ!」
走って揺れる胸しか見てなかったなんて、絶対言えない。
「紅組速い! が! 白組が真後ろまで迫ってきたー!」
ほぼ同時にバトンは最後の詩音と美嘉に渡り、二人は陸上部顔負けの速さで走り出した。
「あれ、どっちが勝つんだ!?」
「とにかく桜羽さんを応援するしかないでしょ! 頑張れー!」
何故か小っ恥ずかしくて応援できないでいると、半分を過ぎた時、美嘉が詩音に差をつけ始めた。
「あぁ‥‥‥」
「輝矢も応援しないと!」
「が、頑張れー」
「声が小さいよ!」
「が、頑張れー!」
あー!恥ずかしい!
俺が応援しても引き離された距離は変わらない。最初の点数は後のモチベーションに関わるからな。言うしかないか。
「詩音! 勝て! 命令だ!」
「えぇ!?」
「うぇ!?」
大河と俺が声に出して驚いたのは、命令した瞬間、詩音の足にターボでも付いてるのかってぐらい走る速度が増して、すぐに美嘉と並んだからだ。
「すっげぇ!」
そして俺達の前を通る瞬間、詩音は俺の方を見て、カッコいい爽やかな笑みを浮かべた。
「輝矢ってモテるんだね」
「そ、そんなんじゃないって」
「あっ!」
ゴール間近、詩音が美嘉を抜かした時、美嘉が派手に転んでしまった。
それを見て紅組が勝ちを確信して盛り上がる中、詩音はゴールテープの目の前で立ち止まり、痛そうに膝を押さえる美嘉に言った。
「ゴールしていいですか?」
「なに? 煽ってるの? 油断してたら私が先にゴールするから」
「なんだなんだ? 転校生が立ち止まり、敵チームとなにかを話しているぞ?」
アナウンスも戸惑っているが、問題は俺達紅組だ。
勝ちたいがあまり、美嘉のことを一切気にしない言葉が飛び交ってる。
「早くゴールしちゃえよ!」
「今なら勝てるよ!」
詩音は基本俺の言うことしか聞かない、ある意味ロボットみたいなところあるからな。周りの声に揺らいだりはしなそうだけど、どうする気だ?
「ちょっと、待っててもらっていいですか?」
「はっ、はぁ?」
詩音はゴールせずにアナウンスをしている生徒の元へ走っていった。
「マイクを貸してください」
「えぇ!? 困るよ!」
「貸してやれ」
がっつり詩音と木月先生の声もスピーカーから流れ、詩音がマイクを握った。
白組は白組で、今のうちにゴールしちゃえなノリになってるな。
「紅組の皆さん。よく聞いてください‥‥‥少し黙れ。あ、桐嶋さんには言ってません。それでは戻ります」
「‥‥‥か、かっけぇ‥‥‥」
「桜羽さんって、すごい優しい子なんだね」
「そうかもな」
そして、美嘉の元に戻ってきた詩音は、美嘉に肩を貸して歩き出した。
「ちょっと? 紅組のみんなに怒られるよ?」
「膝の痛みより、捻って歩けないように見えました。それに私、なんだか貴方が好きです」
「な、なにそれ!」
「知り合ってまだ浅いですが、インスピレーション? ヌルヌルローション? そんな感じのを感じました。貴方は良い人です」
「ローションはわざと言ったよね‥‥‥」
肩を貸されて、ちょっと背伸びになってる美嘉がちょっと可愛い。
結局、二人は同時にゴールし、ブーイングが起きるかと思ったが、これはこれでなんだかんだ盛り上がった。
「まさかの熱い友情だ!! 最初からこんなのを見せられてはたまらん! おっと、速報が入りました! 紅組白組、同時に二十点獲得だー! さーて! 次は一年生男子のリレーです! 配置についてくださーい!」
さっそく鉢巻を巻き直して移動する間、詩音は俺に声をかけてきた。
「私は間違っていましたか?」
「いや! 最高によかった!」
「それはよかったです。頑張ってください」
「おう!」
「輝矢くん! 頑張ってね!」
「おう! 鳴海もありがとう!」
二人に応援されて配置に着くと、一回も話したことの無い生徒が、生徒の名前が書いてある紙を持って話しかけてきた。
「桐嶋輝矢くんだよね」
「そうだけど」
「アンカーの生徒が休んじゃって、それで、一つ前を走る輝矢くん!」
「あ、嫌です」
「まだなにも言ってないよ!?」
「アンカーになれって言うんだろ」
「いやいや、人数が足りないから、二周連続で走ってほしいんだ」
「‥‥‥無理無理無理無理!!」
「そこをなんとか! 昼休み、ジュース奢るからさ!」
「そういう問題じゃ‥‥‥」
「おっ、始まるから頼んだよ!」
「マジかよ‥‥‥ふざけんなよ‥‥‥」
アンカーのプレッシャーとかとんでもない上に、二周連続じゃ体力が保たなくて勝てる可能性なんて無いに等しい‥‥‥。
「桐嶋、勝てよ」
「木月先生、それはもういじめです」
「ごめん。謝ったからよし」
「本当に教師とは思えないんですが」
「ほら、いつまでも不貞腐れてないで応援しろ」
「はーい」
「全員、輝矢のためにできるだけ差をつけよう!」
「おー!」
「大河、やっぱりお前はいい奴だな!」
「僕達に任せて!」
「おう!」
それから紅組は、順調に白組との差を広げていき、丸々二人分の差をキープし続けた。
そして、俺の一つ前を走る大河がバトンを握った。
「行け! 大河!!」
「おりゃー!!!!」
「おっせーよ!!!!」
大河は気合いだけ十分で、足は遅く、すぐに距離を詰められ、大河と白組は同時にバトンを渡し、俺は差のない状況で二周走ることになってしまった。
「輝矢ー!」
「輝矢くーん!」
「桐嶋さん!」
「行け行けー!」
白組と並んで一周走り終え、そのまま二周目に入ったが、バトンを渡すロスが無い分、白組のアンカーより早く前に出ることができた。
「おっと!? 話題の転校生乱入だ!! いいのか!? これはいいのか!? 木月先生!」
「構わん!! 盛り上がれば良し!」
「許可が降りたー! 転校生が紅組アンカーに並走している! 応援しているのか!? 一番近くで応援しているぞ!」
「詩音! なにやってんだ!!」
「頑張れっ♡ 頑張れっ♡ いっけ♡ いっけ♡」
「一応聞くけど、それ純粋な応援か!?」
「プレイです♡」
「もう嫌だー!!!!」
「紅組のスピードが上がったー! だが白組も追い上げる! まだ勝負は分からない! 残り百メートル!!」
詩音はまだ並走してきて、ゴールテープが見えたその時だった。
「っ!?」
「危ない!」
「紅組転倒! 転校生が下敷きに!!」
「やっぱりこうなったじゃねぇかよ!!」
「白組リード!! このままゴールしてしまうのか!? それとも私達は、またあの感動シーンを目の当たりにするのか! いや、今ゴール!!!!」
「えっ‥‥‥」
「あぁ‥‥‥桐嶋さんが明るい人気者なら同情されたかもしれませんのに‥‥‥」
「おい」
「ちなみに、鳴海さんが笑みを浮かべて見ています。あの笑みは睨みと大差ありません」
「‥‥‥」
それから、全学年のリレーを通して、紅組四十五点。白組は六十八点で終わった。
どんな基準で何ポイント入るかは、体育祭実行委員と先生のさじ加減だから決まりはないけど、高いポイントは種目で勝つことが絶対条件。
まだ一種目だし、まだまだ分からないな。
「輝矢くん!」
「な、鳴海‥‥‥」
「ポニーテールどうかな!」
「う、うん、似合ってる」
そんな不敵な笑みで圧かけてこないでー!!!!
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