第11話 風前の灯火
あなたの声がわたしに触れる。
温かくて、それはもう温かくて。
その声に包まれながら
うとうと、うとうと。
あなたの腕の中で目覚める幸せなわたしは柔らかい。
陽射しはまだ眠気眼なのに
あなたはまるでネジ巻き人形のようにカタカタとうごきまわる。
そんなあなたを薄目で追う。
あなたはわたしを呼ぶ。
聞こえないふりをするわたし。
肌掛けの上から抱き締めてくるあなた。
冷たくなるから、消えてしまうからそれはやめて欲しいのに。
耳ともで囁く声は氷のようで、
決してわたしに触れてはくれない。
ただいつもように距離を保ち
静かに置かれていく言葉。
「愛しているよ。愛している」
その言葉が堕ちて行くたび
心の中で笑うしかなくなったわたし。
もうそんな言葉に意味を持たせることなんて出来やしないと判っている。
それなのに離れていく声を引き戻したくて名前を呼ぶ。
振り返るあなたは優しく微笑み
扉をパタンとしめた。
泣き出すわたし。
泣き止めないわたし。
扉に縋り付くことほど
滑稽なことはないのに……
触れているよ 紫陽花の花びら @hina311311
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