J(ジェイ)の夢

@yumetohikari3

第1話 来訪者その名は「J」

 果たして、人は一般的にどう対応したらいいのだろう?

「こんにちは。初めまして。私の名前は通称「J」。年齢は200歳を超えています」

 こんなセリフを口にする人間に出会ったら、たいていの人はゾッとしてまともに相手をしないだろうし、無関係でありたいと思うだろう。

僕だってそうだ。僕はまともな人間だ。なぜって?将来は結婚して幸せな家庭を築きたいと思っているのだから。

でも僕は、しばらくの間、このJという人と付き合っていかなければならないのだ。

 僕の今の職場は有料老人ホームで、そこには身体的・精神的問題を、常識的でない程背負い込んだお年寄りたちがひしめき合って暮らしている。

だから多分、年齢200歳以上のJとかいう人も、かなり特異なタイプだけど、「そういう人」なのだろうと思ったのだ。


 僕が働いている有料老人ホーム「フローラ・カンタービレ」は3階建ての施設で、約50名のお年寄りたちが生活している。介護施設の常で、利用者様が体調を崩してそのままお亡くなりになる、なんて事はしょっちゅうあるし、その空いた部分に新しい利用者様が入所してくる。そういうサイクルなのだ。

 つい先日も、足腰はしっかりしているのだけれど、かなりの認知症で要介護度が「5」の利用者様がいた。その人は昼でも夜でも、寝たい時に寝て、起きたい時に起きて、施設内をぶらりぶらりと歩き回っていた。だから介護スタッフの中には、その利用者様をあまり良く思っていない人たちもいた。介護に関わったことのない人には、なかなか想像しにくいけれども、その利用者様は真夜中にお部屋の中からフクロウのように音もなく出てきては、施設内を歩き回り、他の利用者様の部屋を開けたりする。ある時なんて、トイレの便器にお顔を突っ込んで、そこで洗顔していたし、汚い話だけど、「大きいほう」や「小さいほう」も所構わずどこでもしてしまう。だから一般常識で判断したりすると、「そんなことをしたらだめですよ」と否定してしまいたくなる。そんな考え方に対して、僕は「でもね」って思う。

「それって究極の自由人じゃないですか?」ってね。

そんな究極の自由人が突然施設内で体調を崩され、その3日後にお亡くなりになった。

それから、しばらくして入所されたのが、あの通称Jさんだった。


Jさんが入所される前に、スタッフ間で共有した情報によると、男性で要介護度は「5」。親族はいなくて、入所に際しての身元保証人は、民間の家族代行会社。目立った身体的疾患は見られない。そして年齢は…何のことはない。昭和21年つまり1946年、太平洋戦争が終わった翌年で「76歳」と書かれている。

それはそうだ。年齢200歳の人間なんている訳がない。それから、ついつい「J」なんて自己紹介されるから面食らったけど、通称Jさんの本名は「望月道長」ということだった…





















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