第一章 ツバキ
「いただきます」
朝一番の光が差す公園のブランコ。まだ誰もいないここで朝食をとるのが私の日課。出来たてのパンを口に含むと、朝の空気が甘いシナモンの香りに染まった。
「今日は洗濯日和だなぁ」
太陽を仰ぐと、その日差しに元気をもらったかのように、私の心もあったかくなった。私は、最後の一口を口に入れ、自転車にまたがって走り出した。あたたかい風にサラサラと髪がなびいた。
「ただいまー」
玄関の扉を開けると、奥の部屋から『おかえりー!』と言わんばかりに尻尾を振って走ってきたものが私に飛びついた。
「ポポ、ただいま。いい子にしてた?」
ポポを撫でながら微笑みかける。ポメラニアン特有の、笑ってるように見えるこの顔が、たまらなくかわいい。
「さーて、洗濯機回さなきゃ」
私は足早に歩いていくと、後ろからポポがついてきた。洗濯機のスイッチを入れ、キッチンへ向かう。両親が朝食を食べた時に使った食器がシンクに溜まっていた。
朝、公園で朝食を食べ、家に帰ってきてポポの頭を撫で、洗濯機のスイッチを入れ、シンクに溜まった食器を洗い、洗濯物を干す。昼食後、洗濯物を取り入れ、夕食の買い物に行き、夕食を作って、早めに寝る。これが私の毎日。
私は食器を洗い、棚に戻した。ふと気づくと、少し離れたところでゴソゴソと音がしている。
「何だろう…?」
周りを見渡すと、ポポの姿がない…。
「もしかして!?」
嫌な予感がした私は、音のする方へ行ってみると、部屋一面にティッシュが散らばっていた。部屋の中央に、ティッシュの箱と『見つかっちゃった…』という顔をして私を見るポポ…。
「ポポ!もう、ダメじゃない!!」
ティッシュを拾う私のあとを、楽しそうについて回るポポ。いたずらっ子だけど、この顔を見るとやっぱりかわいいなぁ…と思ってしまう。私はポポを抱きしめた。
昼食後、洗濯物が乾くまでの時間が、私の一番お気に入りの時間。家に誰もいない、私だけの時間。今朝もらった紅茶をいれると、爽やかな柑橘系の世界に包まれた。
「はぁ…いい香り…」
私はアイスを食べながら、スピッツのCDを流した。すぐ隣でポポが伏せながらスプーンの行方を追っている。“ゴロン”と横になり、次のLIVEには行きたいなぁ…と思っていたら、知らない間に眠ってしまっていた。
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