第一章 アリサト

「あっ!やっと来たぁ!アリサト!こっちこっちー!!」


手招きするのは俺の幼馴染みのヒヨリ。ヒヨリが男3人、女4人が座るテーブルの一つ空いた席をポンポンと叩いたのと同時に、俺は一斉に彼らの視線を浴びた。数日前、ヒヨリがどうしても頭数が足りないからと俺に懇願してきたため、焼肉と引き換えに参加することになった飲み会。飲み会なんかで貴重な時間を潰されるくらいなら、三国志のゲームをやっていた方が有意義というものだ!と思いながらも、渋々やってきたのだ。俺が席につくと、ヒヨリがクスクス笑っている。


「すいませーん」


ヒヨリが店員に声を掛けるとすぐにオーダーを取りに来た。


「あ、コーラください」


「ちょっとぉ!みんなお酒飲んでるのにコーラなの!?この人ね、すっごくお酒弱くて、酔っぱらうと赤ちゃんみたいになるんだよー(笑)」


「あら、そうなの?見てみたいわ(笑)」


ヒヨリの隣に座る、身を乗り出した女の子の甘ったるい香水の匂いがした。


(こいつ…俺の赤ちゃん姿なんて見たことないくせに…)


俺は店員からコーラを受け取り、一気に半分飲み干しながら、面倒くさいこの場から何とか早く立ち去りたいと思った。


「ね!ねっ!この後さー、二次会でカラオケに行こうよ!」


コーラを何杯か飲み終わった頃、すっかり酔っぱらったヒヨリがそう言うと、その場にいた大半が乗り気になり、カラオケまで移動することになった。


「あー、俺、この後ちょっと用があるからここで帰るわ」


「えーっ!アリサト、帰っちゃうの~?」


俺は、酔って甘えた声を出すヒヨリに近付き、耳打ちした。


「ヒヨ、今度、焼肉だぞ?」


「もう…わかったよぉ…」


口を尖らせたヒヨリとは逆方向に歩き出すと、一人の女の子の声がした。


「あっ、私もここで帰らないといけないから…みんなごめんね」


「アリサトー!ちゃんと送ってってあげるんだよー!」


叫ぶヒヨリの声を背後に感じながら、俺と並んで同じ方向に歩き出した。「どうやって帰るの?」と隣の子に聞くと、駅から電車に乗るとのことで、俺はそこまで送っていくことにした。飲み会でのことをお互いに話していると、思ったよりも早く駅の改札に着いた。立ち止まり、別れを告げようとした時、その子がポケットから小さなメモ用紙を取り出し、俺を見てはにかんだ。


「あの…もし気が向いたら連絡して?じゃあね!」


俺がそれを受け取ると、その子は改札に消えていった。思わぬ不意打ちに立ち尽くしながら手渡された紙に目を落とすと、そこには名前とLINEのIDが書いてあった。



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