第34話 事の真相
神代はただただ言われるがまま付いてきたんだろう。
頭上に壮大なクエスチョンマークが点灯し、その表情は緊張とも焦りとも言えない顔をしている神代に内藤さんは声をかける。
「えー神代君、簡単な自己紹介をお願いできるかな?」
「はい。株式会社サイテリジェンス企画室 営業部 広報課 神代恭一です」
そうして、内藤はまたお偉いさんの面々を神代に紹介していく。
それを聞いてみるみる顔が青ざめていく神代。
「それと、北村くんと市川君たちは知ってるね? 一緒に飲んだ仲だ」
「はい、存じ上げています。内藤さんこれは一体……?」
「うん、神代君にはさっき話した炎上騒動を社長らに説明してほしいんだ」
「え、はい分かりました……」
「では、お手元の資料と共に、神代君の説明を聞いていただきたいと思います」
内藤さんがそういうと、お偉いさんの面々は資料を見始める。
「はい、えーと、では。ま、まず、私はサイテリジェンスの広報活動と共にインターネット上で様々な活動をしていまして、活動の一環で個人的に別の番組出演の話があったのですが、諸事情により出演の依頼が無くなった経緯が御座います」
「うん、で、その番組名とかは、個人的な事情で守秘義務があると?」
内藤さんがツッコミを入れる。
「はい。それでその件を私の運営するオンラインサロン上で呟いたところ、北村さんがテレビ番組に出演した際、私の番組出演を北村さんが妨害したという話が流布されてしまい、それが炎上の切っ掛けになってしまったようです」
お偉いさんの一人が声を荒げる。
「それは君! サイテックとは全く無関係な事実無根だという事かね!?」
「は、は、はい、そうです……」
もう神代は少し涙目になっているが、気に掛ける訳も無く代表が言い出す。
「君の個人的活動が招いた炎上騒動がサイテックに降りかかったという訳か」
「大変申し訳ありませんでした……」
見るからに窮地に立たされている神代。そこに内藤が助け舟を出す。
「我がサイテリジェンスでは個人の裁量にて副業を許可しておりますので、そこに業務的な違反は有りません。この事態はいわば不可抗力でして、神代君や北村君にその責任の是非を問う物ではなく、この場ではその事態収拾を議論したいのです」
「そうか、うちではなくサイテリジェンスの社員だったな……」
「しかしサイテックへの火の粉も避けようがなく、実際炎上が始まっております、皆さんのお知恵を借り、事態の収拾を行いたいのですが、何かご意見はありませんか」
内藤さんはどうやら、俺と神代を救いたいようである。
そのうえで事態を収拾し、炎上を鎮火させるアイディアを募る会議という事だ。
「うーむ。しかし炎上自体は北村君の老害発言が発端だろう?」
うう、す、すみません。それ俺じゃないんだけど、すみません。
「それなんですが、ちょっと私の方で色々調べまして、判明した事実がございます」
「事実というのはなんだね?」
「はい、それで更に、お二人をお呼びしているので少々お待ちください」
内藤さんはそういうと、また女性社員に声をかける。
俺と神代は二人して真っ青な顔になりながら、見えない脂汗をしたたりそうなくらいかいていると、誰かが会議室に入ってきた。
「「失礼します」」
「お二人はそちらの席へ」
内藤さんに促されて席に着き、二人が自己紹介を始める。
「比留川探偵事務所 代表の比留川敏夫と申します」
「JNM日本メディアネットワーク株式会社報道局メディア担当室室長、ここだけ無礼講の番組プロデューサーを務めている、笹山慎一郎です」
笹山さん!? と誰だ?
「えー、お二人は皆さんの中でご存じの方もいると思いますが、ここで少々経緯を話させていただきます」
内藤さんは炎上した経緯を話し出した。
「今回、北村君のテレビデビューを控え、まだ素人である北村君を保護すべく、私が北村君の身辺調査や問題調査を比留川さんに依頼させていただきました。すると比留川さんの方から、北村君の邪魔をしたい別の依頼者がいるとの報告を受けました」
一瞬、神代がビクッとする。
「まぁ探偵さんですから依頼者は明かせないとの事で、私はここで比留川氏を止めても原因の排除が出来ないと分かり、先だって起こるであろう問題の対処をすることにして、2週間以上前から本日の会議のスケジュール調整をさせていただいていました」
え、ちょっと待て?
魔人は2週間以上前にこの出来事を読んでいたのか!?
「そうして起こるべくして炎上が始まった訳ですが、そのきっかけはそちらに居る神代君の発言でした。しかし神代君は先ほど話した通り無実であります。それと北村君、あの老害発言は、本当に君が書いた事かい?」
「あ、い、いえ、私は緊張していましたので、もっと無難な回答をしたはずなのですが……」
「はい。ですよね、市川君や他の二人はどう思いますか?」
「友達の中でも北村君が言うはずがないと満場一致でした」
うう、ありがとう、みんな。
「そこで私は、誰が北村君の発言を書き換えたのかと思いまして、比留川さんに調査依頼をした所、守秘義務で言えないと回答を頂きました。そこでピーンと来たんです。知らないではなく言えないと言われました」
すると、笹山さんが突然、内藤さんの話に割って入ってきた。
「た、大変申し訳ありません。私が番組の盛り上がりを願って書き換えました。北村さん本当に申し訳ない、全て私の責任です」
突然笹山さんが俺に深々と頭を下げてきた。
「いや笹山さん頭を上げてください!」
内藤さんは続ける。
「お話をしますと、実はこの二人私が以前顔合わせを済ませていた仲で、そこにJMNの社長である西園寺さんも同席していまして、その席の話をしたいと思います」
「あ、それは私から」
そういうと笹山さんは話し出した。
「北村君と顔合わせた後、私と西園寺さん内藤さんで打ち合わせを行ったのですが、その席で北村君をもっと盛り上げるために何かできないかという話になりまして、西園寺さんからの提案で、番組内で北村さんに難題を仕掛けろと指示が有りました」
「あーうん、銀座でね。西園寺さんノリノリでしたもんね!」
内藤さんは楽し気に話している。
あのガマガエル!
いつまでそうして居られるかなって、大泉元総理との話だけじゃなかったのかよ!!
笹山さんは続けた。
「それで私がどうしたらいいかあぐねて居ると、比留川さんから連絡があり、北村君の回答を書き換えて欲しいという依頼を受けたのです……」
「比留川さん、それはどういう依頼だったんですか?」
内藤さんが比留川さんに聞く。
「はい、依頼主は申し上げられませんが、北村さんの番組デビューで、失敗させてほしいという依頼です。しかし、大きすぎる失敗ではカットされる恐れがあるため、適度に反感を買う回答をお願いしました」
「なるほど! それで老害は去れという回答になったんですね」
「はい、大変申し訳ありませんでした、まさか御社に火の粉が掛かるとは……」
「で、その結果はどうでしたか?」
内藤さんは笹山さんへ聞くと。
「はい、えー、その結果テレビ局は電話が殺到し、視聴率はピークで22%を記録しましたが、その反響が大きすぎてネットでは炎上してしまったという経緯です」
「えーとつまり、これは大成功という事ですかね?」
「そうですね、テレビ局的には……」
何にも、全く、一切、1ミリも知らなかった俺にはもう何が何やら……。
炎上してるって知ったのだってついさっきじゃい!
「以上が全ての事の顛末という事になります。ここまででご質問等有れば……」
「あ、ああ、うん、君が凄いというのは分かった……」
魔人が強力過ぎて社長も困惑しているようだ……。
「で、どうするのかね? 内藤君。このままでは社のイメージが悪くなる一方だぞ」
「そうですね、何かいい案が有ればいいんですけど」
すこし沈黙の後、神代は突然手を挙げて話し出す。
「すみません発言していいでしょうか?」
「神代君どうぞ」
「今回の表から見える事の発端は、私の発言が北村さんと勘違いされたのが原因です。だから私が、仕事を奪ったのは北村君ではない、と発言をすれば収まるんじゃないでしょうか?」
「しかし、それでも北村君が書いたとされている老害発言の対応ができなくなるな……」
サイテック代表の言葉は重い。
「「本当に申し訳ありません……」」
笹山と比留川が同時に謝る。
俺は会議室に不穏な空気が漂うのに耐えかねて話しだす。
「あの、それは、私が次回の出演時に謝れば良いだけなのでは……」
「それだと弘樹の悪評は戻らないじゃないか、撤回は出来ないぞ」
忠司が俺を気遣ってくれている。
内藤さんは同意し、お偉いさんには別の懸念事項を指摘される。
「北村君はサイテックの看板を背負うタレントになるんだ、悪評はマズイな」
「社として謝罪し、君の首を切るのは簡単だがイメージ低下にもなりかねん……」
トカゲのしっぽ切りを行い、謝罪しただけでは収まらないのは間違いない。
それに、俺のプロモーションには既に大金を投じているのだ、今更辞めますという訳にもいかない所まで来ている。
俺達は事の真相を知り、その原因も結果も手元に出そろっているが解決方法が見つからない。方針さえ決まれば国すら動かせるような面々が集まるこの会議室で、誰一人としていいアイディアが浮かばず、会議室の不穏な空気は一層濃くなる。
一刻を争う事態なのにだ。
神代と俺を救い、サイテックのイメージも上げて、なおかつ炎上も止める方法。
俺の脳は煙が出るどころかバチバチと火花を散らすほどフル回転している。
たしかにネットの炎上は神代が真実を語り訂正すれば一発解決だと思う。
しかし炎上が止まってもアンチがあちこち火をつけて回るだろう。
そうなれば問題の本質はお茶の間って事になる。
そこが解決しなければ社のイメージは回復しない。
ならアンチが幾ら火付けをしてもお茶の間が取るに足らない程度になればいい。
つまり、テレビ局での衝撃的な回答が吹っ飛ぶくらいの事をすればいいんだ。
そんな問題なんか俺にとって些細な事だという風になればいいんだ。
そしてここでさっき会議された内容……。
そうして俺は、たった一つのアイディアを思いついた。
しかしそれは、俺だけではどうにもならない事だった。
一縷の望みに賭けて、内藤さんに問いかける。
「内藤さん。かなり、無茶なお願いしてもいいですか?」
「ん、北村君!? アハハハハー、エート、ドウシヨウカナー? コワイナー!」
俺自身はどうなっても構わないが、俺の勇者としての役割は何だ。
日本を救い、沢山の労働者を取り戻し、この会社を守り、名誉を回復する。
それにはプロの手を借りて、俺は俺の出来ることをする。
それが俺という勇者の役割なんだ。
俺は意を決して、内藤さんだけに小声で話してみることにした。
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