第31話 火炎魔法

 放送が終わり俺の意識が飛んでしばらく。

 みんなは大智の家でワイワイと雑談をしている。


「しかし、弘樹は凄い事になってるな」

「このあと、いろんなところに広告出たりするんだろ?」

「大変よねぇ、なんか少し気の毒になっちゃう……」

「ア、アハハハ……」


 俺は理香子の膝枕で横になっている。

 その脇で皆が俺の話をしていると通知音らしい音が聞こえてきた。


『ポーン!』

「あ、私だ……」


 彩は鞄からスマホを取り出し、画面に目を落とす。


「り、理香子、ちょっとこれ……」

「なに?」


 それは彩が登録している神代の有料サロンフォーラムの記事投稿通知の音だった。

 その書き込みを見るとそこには。


『さっき放送された無礼講に出演していた新人の北村弘樹って、この前ここで神代様が言ってた人じゃない? サイテックスってサイテリジェンスの親会社だったよね?』


『どうかな、神代様はどこの誰とかは話してなかったけど』

『老害は去れって酷いよね。こいつならやりそう』

『私は良いアイディアだと思ったけどな』

『俺知ってるぜ。神代様と敵対してる新人は北村で合ってるぜ!』


 閉鎖的なオンラインサロンでは、既に神代と北村の関係が囁かれていた。

 サイテックスとサイテリジェンスという親子会社関係から推察されたそれは、事実を知ってるとうたう会員の登場でより真実味を増していく。


「理香子、これまずくない?」

「う、うん……」

「ん? どした、二人とも」


 理香子と彩の会話を聞いて、忠司がスマホを覗きに来た。


「い、いや、これは……」

「ん? なにこれ?」

「どしたの?」

「何何?」


 ソファーで横になってる俺を他所目に、5人全員が彩の携帯を見始める。

 さらに神代で検索をかけてみるとネット上では既に投稿が多数寄せられ、大手匿名掲示板では物議を醸している。


『速報!大手インフルエンサー神代恭一、新人に番組出演を奪われる』


 その掲示板の中では……。


『だれだよそいつ』

『今日放送された無礼講に出てた北村って言われてる』

『情報持ってるやつ居ない?』

『特定班いないのか?』

『サイテックってそういう事する会社なのか』

『神代の親会社だろ、権力こえー』

『この北村って誰だよ』

『神代の親会社の社員だぞ』


 既にネットの中では炎上が始まりだしており、北村の特定班まで動き出した。

 また、会社の評判にも影響する流れが出来ている。


「これなんだよ!?」

「こ、これまずいんじゃ……」

「そうだよな……内藤さんは知ってるのか?」


「う、うん、以前少し相談したことが有って。知ってるとは思うけど、こんなことになってるの知ってるかは……」


「伝えた方がいいんじゃないか?」

「うん、電話してみる」


 全員が緊張する中、理香子が電話を試みた。


「もしもし、小鳥遊です、内藤さんですか?」

「あー、うん。そろそろかかってくると思ってたよ!」

「え?」

「ネットの事だろ? 面白い事になって来たねぇ! アハハハハ!」


 完全に北村の人生で遊んでいるとしか思えない。


「今、北村は?」

「あ、弘樹君はさっき視聴率の結果聞いて、いま倒れちゃってます……」

「そうかそうか! 彼も面白いなぁ! まぁ倒れてるなら好都合だ、この事は言っちゃだめだぞ?」


「わかりました……、でもこれ、どうなるんですか……?」

「うん? だから明日トップと会議する話になってるんじゃないか」

「え? だってそれは4日前に決まったんじゃ……」

「まぁ、俺の予想だと記者会見することになるだろうな」

「記者会見……?」


「会社の評判が落ちることは絶対避けないといけないし、会社として会見開いて騒動の当事者、北村と神代を並べて話をさせる事になるだろうな」


「そ、そんなことして、北村君ますます炎上しちゃうんじゃ?」

「大丈夫大丈夫! そんな事にはならんよ! たぶん!」

「たぶんって……」


「うーん? 理香子ちゃんは彼氏の事信じてあげないの?」

「そ、それは信じてますけど……」

「じゃあ北村が起きたら勇気づけてあげてよ! それが君の仕事だ!」

「は、はい……」


「それとも……小鳥遊さんは、他に力になってくれる事でもある?」

「え? いや……」

「アッハッハッハッハ! 大丈夫任せといて!」

「は、はぁ……」


 理香子の心配を他所に常に高笑いの魔人。


「あー、みんなそこにいるんだろ? 明日は遅刻するなと伝えておいて!」

「わ、分かりました……」

「そんなに心配しなくても大丈夫! 俺も付いてるから! じゃあな!」


 そうして電話を終わらせる内藤。


「理香子、どうだった?」

「な、内藤さんは大丈夫だって……」

「そんな……」


「まぁ、あの人が大丈夫っていうならそうなんじゃないか?」

「どっちにしろ俺達はなんもできないしなぁ」

「なぁ、これ弘樹に言っていいのか?」

「内藤さんは言うなって言ってた……」


「う、うーん……」

「お、弘樹起きたか?」


「な、なにが……」

「弘樹お前、テレビ見た後気を失ってたんだぞ?」

「そ、そうだったのか、なんか頭スッキリしてる……」


 目を覚ました俺を5人が雁首揃えて不安そうに見てくる。


「なんかあったのか?」

「い、いや何もないぞ、あー、お前が理香子ちゃんの膝枕されてたくらいだな!」

「うっ!?」


「弘樹良かったなー! ハハハハー」

「うんうん! ハハハハー」


 なんか、忠司の様子がおかしい。裕也と大智も生返事だ。

 というか、全員がなんかよそよそしい気がするんだが気のせいだろうか。


「理香子、なんかあったの?」

「う、ううん、何でもないよ! 大丈夫!」

「あんたは明日の会議の心配でもしてな! さて、今日はそろそろお開きにしましょうか!」


「そだなー、ハハハハー」

「そっか明日会議か、思い出したら緊張してきた……」


 彩がそういうと全員が帰り支度をはじめる。


「弘樹今日はお疲れさん!」

「大智ーまた遊びに来るからなー」

「おつかれ!」

「あ、みんな明日は遅刻したらだめだよー!」


 最後に理香子がそう言って、俺たちは解散することになった。

 どうも最後の皆の反応が腑に落ちないけど、それより問題は明日だ。

 俺は自宅についてから、明日の事を考慮し早めに寝ておくことにした。





「あっはっは! 北村! ざまぁみろ!」


 ほどなくして、自室でスマホを片手に一人祝杯を挙げている神代。


「俺は北村だと明言はしていないし、とぼけていれば大丈夫だ! 比留川に噂を流す依頼をしたのは大成功だったな!」


 事態をまとめるとこうだ。


 神代は北村を貶めるために裏アカウントで仕事を奪われたとだけ告知をした。

 裏アカウントの熱烈なファンはそれが誰なのか追及しはじめていた。

 神代は一向に口を閉ざしていたのだが。


 放送終了後、比留川が裏アカウントに北村だと匂わす発言をする。

 それが飛び火しSNS上で北村が犯人だという書き込みが殺到し始めた。

 さらに比留川が匿名掲示板で論争を引き起こす。


 神代信者は激高し、北村特定班が動き、にわかが便乗する。

 こうしてネットでは、サイテリジェンスの神代は被害者、親会社のサイテックは黒幕、サイテックで働く北村は卑怯者、という構図が出来上がり炎上が始まっていた。


「しかし、あの回答は愉快だったな! こりゃ追加報酬が必要になりそうだ!」


 神代は北村が失敗するように内容を書き換えて欲しいと比留川に依頼し、アクセルとブレーキの踏み間違いのテーマへの回答がスタッフにより改ざんされた。


『老害は去れ』


 神代はそれを目にした直後から笑い転げその直後にテレビを消してしまっていた。

 その為その後の弘樹が発動させた無感魔法をちゃんと目撃していなかったのだ。

 現在その結果では確かに大炎上が始まっている。

 

 人は、自分が信じている事しか視界に入らないものだ。

 この時神代は、ネットの中に北村擁護派も沢山いる事に気が付いてなかったのだ。


「これであいつは今後あらゆるものから降板させられるだろう。あいつには悪いが、俺がもっと高みに上り詰めるための犠牲になってもらうとしよう」


 そんなことを考え、ワイングラスを片手にニヤニヤしていると電話が鳴った。


「おー神代か? まだ起きてるか?」

「内藤さん! お、お疲れ様です。こんな時間にどうしたんですか?」


「あー神代、明日なんだがな。明日はサイテリジェンスじゃなくて、サイテックスの俺のオフィスに出社してもらえるか?」


「構いませんが……」


「ちょっと早めの9時に来れるか?」

「はい大丈夫です、何かするんですか?」


「うん、まぁな! 来てのお楽しみだ」

「また、内藤さんはいつもそれなんだから……」

「でもそれが毎回楽しいだろ神代! ワハハハ」

「はぁ、まぁ、それはそうですが……」


「んじゃ、明日は頼んだぞ、じゃなー」

「はい、分かりました、お疲れさまでした」


 そうして、神代は電話を置いてから呟く。


「内藤は恐ろしくカンが働くからな……、まぁ、おおむねネットの炎上を見たから呼ばれたんだろう。明日は色々聞かれるんだろうが俺は知らぬ存ぜぬを通せば問題ない。なんの証拠も無いんだしな、フフフ」


 こうして神代が放った火炎魔法がついにネットで大炎上し、当の本人である北村は何も知らないまま窮地に立たされた。そして明日、友達を連れて魔界へ赴き、大企業サイテック上層部との決戦を迎えるのだった。


そして、恐らくそこに呼び出されたであろう安心しきっている神代。

しかし、全てを知って何かを企む内藤にはある思惑があるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る