第6話 大魔法の効果
翌日から会社からの返答を待っている間、仕事をしててもゲームをしてても、どうやって人を確保するかばかりを考えている。以前思いついた妙案はまだ温め中だ。
なにせもし通れば、一人連れてくる度に給料が10%ずつ福利で上がっていく。
今18万、最初は19万8千円、次は21万7800円、3人目は約24万、4人で約26万。
まぁ10%は無理だとしても5%くらいなら可能性はある。
その場合でも4人で約23万だ。
そんだけもらっても、会社は人が増えるだけ助かる。
何人辞めたのかは分からないが、少なくとも元居た15人くらいになるまでは人を増やしたいはずだ。
しかし会社という立場で考えると、世の中に出回っている就職雑誌などで人を集めるには多大な広告費が必要になるはずだ。その中で自社に就職してもらうためには、ベーシックインカムに負けない給料と社会保障を掲載するしかない。
しかし会社は、給料掲載欄にベーシックインカムでもらえる金額を上乗せで書くわけにはいかない。見た目では以前と大して変わらない金額しか乗らないのだ。
未成年だって働ける会社だ、ベーシックインカムでもらえる金額はその人の状況によって変わる訳で、どういう境遇の人が就職を希望するか分からないため、今まで週3日で18万だった欄を、決して週3日で30万とは記載できない訳だ。
俺は個人で動くからそこが違う。
俺が誰かを誘うときは週3で30万という事を持ち掛けることが可能なのだ。
つまり、そのギャップに世の中が気付く前に人を集める必要が有る。
「今、世の中には、ベーシックインカムで満足して働かなくなった奴があふれている、そいつらに会社がどんだけ苦しんでいるかが知れ渡る前に引き込める事ができれば俺の勝ちだ」
そんなつぶやきをしならが皮算用をしていると、不意にスマホが鳴り響いた。
「株式会社サイテック八王子工場の堀川と申しますが、北村様の携帯でしょうか」
「あ、はい、私です」
食堂であの話をしてから、数日、早くも返事が来たのだろうか。
「北村君、お疲れ様です。先日提案頂いた件です。可能であれば作業時間を増やしていただきたい意向もあるのですが、もし北村君が辞めないのであれば、人を増やすという条件で、今まで通りの勤務日数という話で通りました」
よっしゃ、言ってみるもんだな!
「はい、分かりました、という事は今後も週3日の勤務でよろしいのでしょうか」
「それでお願いします。それと人を増やすのにお手伝いいただく件ですが、一人紹介していただくごとに、その時点の給料の5%を上乗せさせていただく事になりました。それ以上はその時の状況でその都度話し合いという形になります」
「本当ですか、有難うございます」
これは、俺が知ってる範囲の話になるのだが、普通、人を紹介する紹介料というのは思いのほか高額なものなのだ。例えば保育園に資格を持った保育士を一人入れるのに広告費で数十万もかかるのは意外と知られていない。しかもそれで人が確保できるとは限らない。
資格などにもよるが人材派遣会社に頼もう物なら一人100万単位で金がかかる。
さらには、そいつが入った早々辞められても金は戻ってこない。
それが現実だ。
それを考えれば一人の給料が月1万程度上がる事なんか誤差の範囲のはずだ。
「ただし、多少の制約があります」
「どんなことでしょう?」
「何年も先に連れて来られても状況が変わっていると思うので募集期限は最大1年間になります、それと人が増えすぎても困りますから最大10人程度までという事になりました」
なんだそんな事か、てか10人までってマジか。そんなに辞めてたのか。
俺はそう思いながら瞬時に自分の給料がどこまで上がるのかを計算していた。
「分かりました、それで大丈夫です」
「もし北村さんに10人以上のお誘いをしていただいた場合は、報酬、紹介料など、その時に検討させていただく形にさせていただきたいのですがよろしいですか」
「それで結構です」
「有難うございます。ではそれで話を進めさせていただきます。細かい内容や証書の取り交わしは、明日以降の作業後に先日来ていただいた私の事務室で詳細を詰めましょう」
「分かりました、よろしくお願いします」
内心予想以上の結果に感動していた俺は、電話を置いてすぐに思わず声が出た
「よっしゃぁぁぁ!5%で10人までだと!?」
こういう時の俺の頭の回転はとてつもなく速い。
18万スタートの福利で5%、10人までって事は……最大給料293201円!
手取り25万てとこだ!それにベーシックインカムで増えるから……24歳の俺が、たった週3日勤務で、手取り収入が37万!なんということだ!
「それで会社も俺も新たな作業員も損をしない! 俺天才!」
フフフ、これが大魔法ベーシックインカムの真の効果って訳だ!
あとはどこで人を集めるかってことだけになった、期限は1年間!
そこで思い出した。
俺には以前から考えていた、例の妙案が有る。
普段からネトゲをプレイしてる俺は少し前からこう思っていた。
「人との出会いということは……たとえば、酒場、ダンジョン、旅先、冒険者ギルド、そんな感じの場所だろうな」
酒場は、まぁ今の時代若い奴は飲みにいかないから除外だ。
ダンジョンってのは、言い換えると渋谷や新宿なんかだろうな。
そこでの出会いというと、まぁ、声かけ? ナンパ? キャッチセールスみたいな事になるな……。
旅先ってのは職場が限定されてるし、旅行先で知り合った人を仕事に誘うのは無理がある。
じゃ最後のギルドってのは現代に置き換えるとどこだろう。
「ハローワーク……とかかな?」
うーむ、ハロワに求人広告載せるのだって金がかかるかもしれない。
だいたい個人でそんな事できるのか分からん。
「冒険者ギルドってのは、同じ志を持つ奴が集まる場所だよな。この場合の志ってのは、働きたくないけど金はもっと欲しい、働きたいけどできるだけ楽したいって事だ。それでいて今働いてない奴らが集まる場所……」
ゲームで言ったらやっぱ冒険者ギルド、商業ギルド、まぁ、社会で言えばハロワだけど、大学で言えばサークルかな。世間でいえば……うーん、雀荘とか囲碁将棋サロンとかかな。英会話スクールとかギター教室とかか?
まぁ、言ってみれば公園なんかもそうかもしれない。
思えば、今の俺に縁のない場所か苦手な場所ばかりだ。
俺は元々はそれなりに陽キャで、コミュニケーション能力はそこまで低くない。
ただ大学に失敗して腐っているだけだ。それは自覚している。
それなりにいい大学の経済学部なんてところに入った実績だってあるし、それは俺の知識やプライドにもなっている。
しかし腐った手前2年近くも引きこもり、半ニート生活をしていたせいで、あらゆることに怖気づいているのも事実だ。
しかし、ここは俺の人生設計のための踏ん張りどころかもしれない。
「とりあえず行けそうなところから下見に行ってみるかぁ……」
それでも小心者の俺は、少し足がすくむとこう思うようにした。
「まぁ、以前より金はあるしな!」
そうして俺は、現代版ギルドと思われる、冒険者が集まりそうな場所へ向かう事にしたのだった。
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