第7話 ギルドの仲間
別の日。
とりあえず少し気が楽そうな公園から下見に行くことにした。
場所は有名な池袋近くにあるデカい公園だが、そこは既に俺の知っている公園ではなく驚く光景が広がっていたのだ。
「マジか…人だらけだ……」
ベーシックインカムのせいなのか、平日の日中にもかかわらず人だらけで、俺は思わず立ち尽くしてしまった。
若い世代ばかりでもなく、30代を過ぎるような人も居れば、家族連れでショッピングにきたような人も多い。また、昼飯時でもないのに、ベンチで幸せそうに優雅に缶ビールを飲むスーツ姿の人もいた。
「平日の昼だぞ、こいつらみんな仕事してねぇのかよ……」
商店街を見ても、シャッター街になったわけでもなく、道路は相変わらず自動車で混雑している。来る途中の電車は以前とさして変わらない、しいて言えば人出は少し多いかな程度。
恐らく、ベーシックインカムによって日本全体の幸福度が少なからず上がったんだろう。自由な時間が増えたおかげで、こうして人々は自由な時間を過ごすことが多くなったんだと思う。
それに一つ気が付いたことがある。
ブルーシート小屋が全く一切見当たらない。
以前は少なからずいた、ホームレスが全くいなくなってるのだ。
公園がきれいに整備されたってのもあると思うが、ベーシックインカムのお陰で、誰もが月12万という収入を得たために公園で野宿する人が激減したのだろう。
「そうか、そりゃそうだよな……」
少し予想ハズレでガッカリしてしまう。
何を隠そう俺が公園に来た理由はホームレスに声をかけまくって仕事を紹介しようと思っていたのだ。週3日なら参加するホームレスもいるだろう。
まぁ会社が採用するかは別として、人を探す手段としてはアリだ。
しかし誤算があった。
元々雑誌や空き缶拾いといった僅かな収入で生計を立ててた人たちが、月12万も貰ったらそりゃ生活変わるよな。
野宿から漫画喫茶になったのだろうか。
安いアパートでも借りたのだろうか。
恐らく人によって根無し草なのは変わらないと思うが、彼らが以前より快適な部屋で過ごせるようになったのは間違いないだろう。
「ここにはもういないのか……」
諦めて周りを見回すと、チャラチャラした若い奴らが数人でたむろって談笑している。人の事は言えないが、こういうやつらは恐らく労働意欲が皆無なんだろう。
「声をかけるだけ無駄かなぁ」
しかし言うても俺もまだ若い。
ほぼ同年代だろう。
俺もちょっと前までは大学へ行き親の金で遊びまくってた口だ。
だから気持ちは分かる。
金は欲しいが遊んでいたい。
親から遊ぶだけの金を貰えれば働く必要なんかない、ましてベーシックインカムで誰も後ろめたい気持ちにならずに、金が入ってくる。
「そりゃ遊ぶよな……」
しかし、一縷の望みをかけてみることにする。
俺にも身に覚えがある。
もっと遊ぶ金は欲しいでも遊ぶ時間は無駄にしたくない。
俺ですら週3バイトして手取り10万ちょいが当たり前だった訳だ。
こいつらはたった週3のバイトで30万ももらえることに多分気づいてない。
ベーシックインカムの12万が労せず手に入る現実に浮かれている奴らのはずだ。
パパ活や怪しげな勧誘ではなく、うちの会社で真っ当な仕事を、たった週3日働けば月給30万になる事は間違いない。
「よし……ちょっと頑張って、行ってみるか」
俺は意を決して彼らの中に入って行こうと行動を開始した。
「こんちわー!」
「ん? どもー。てか、おにーさんだれ?」
チャラそうだが陽キャ過ぎない感じの男3人女1人の4人組に声をかけてみた。
「怪しい者って訳じゃないんだけど楽しそうだなって思って。何してんの?」
「皆で喋ってるだけだけど? 何?」
当然ながら怪しい奴の割り込みに警戒してくる若人たち。
そんな4人の中でリーダー格らしき奴が反応してきた。
「ベーシックインカムで金入ったから遊ぼうかなって出てきたんだけど、今まであんま外で遊んでなかったから友達いなくてさ、良かったら混ぜてくんない?」
「マジでそんな事言ってんの? お兄さんおもしろ! いいよ別に」
「お、やった、ありがと!」
多少は警戒心が解けたかな……?
「で、何の話してんの?」
「俺らも金入ったから何買うべ、みたいな話ししてたんよ」
「そうそう、俺ちょっと貯めてバイク買おうかなって思ってて」
「私こないだタブレット買ったよ」
「何買ったの? みせてみせて!」
何となく、彼らの金が入った事による自慢合戦を聞きながら会話に交じっていくことに成功、しかし仕事に誘うってのをこっからどうやって切り出すか迷っていると、向こうから聞いて来てくれた。
「で、おにーさん何してる人? うちら大学生」
くっ、こいつら現役か……。
「大学は辞めちゃって今は少し働いてあとはダラダラしてんだよね」
「スゲー! 仕事してんだ! なんの仕事?」
仕事してるだけの事をスゲーと言われる、もうそんな感じで逆にスゲー。
しかし向こうから切り出してきてくれてラッキーだ。
「工場で、検品とか?」
「へぇ、でも何もしなくても毎月金入ってくんだし無理して働かなくてよくね?」
「そうなんだよね、俺も辞めようか迷ってる所」
無理に切り出すのもどうかと思って、働くことに否定から入ることにした。
というかそもそも、可能であれば数回会って友達になることを目標にしてから誘った方が良いと判断した俺は、今は嫌々働いてるが給料が良いので辞められない、という事にして、最初は気持ちの同調を優先して仲良くなる作戦という訳だ!
「そなんだ、辞めちゃえば?」
軽くそんな話をしてケラケラと笑う。
そんな感じで暫く雑談をした俺はとりあえず友達を作ることに成功し、帰り際にお互いの連絡交換をして、また会おうぜという事で別れた。
俺は帰りの電車の中で4人の連絡先を見つめながら小声で言う。
「同年代の友達作るのなんか、ら……楽勝じゃん!」
少し震えた小さな声と心臓の鼓動が早いのを無視しつつ、公園という名のギルドで新たな仲間が出来た事にわずかな充実感を覚えた1日だった。
しかし、仲間になりそうな出会いは有ったものの、相手が現役大学生では仕事仲間になってくれるか少し心配が残る。
さてどうしたものか。
こりゃ、別の場所も当たってみる必要があるかもしれないな。
別の冒険者が集まるような場所ってどこだろうか……。
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