第2話

夏の良く晴れた日のこと。


今日も僕は人間の姿になっていちごとやらに水を与えてやる。


おや、なんだか葉の色が少し変わってきたのか。少し濃いみどり色になってきた。


そんなこと知ったこっちゃないよ。猫だから。


今日も美しくて甘いいちごがなっている。こんな素敵なものがあったらみんなが欲しがってしまう。


僕とご主人様だけの美しい1日が今日も始まる。




「マルク、今日は海へ行ってくるんだ。お留守番を頼む。」


「ニャウン」

ふーん。どっかに行くんだ。僕をおいて。そんなきれいな服を着て行く海っていうのはどんな素敵なところなの?ご主人様が知らないところへ溶けてゆくのはこわい。必ず戻って来てね。ねんねしながら待っているよ。


大きな白い帽子を被って、大きなかごを持って、昨日作ったパンを持ってご主人様はドアを開けて行ってしまった。最後に振り返って「待っててね。」と言った。いつもはすぐに帰ってくるよ、っていうのに。


ご主人様がいないからやることが無い。誰も起こしてくれないから起きていられないんだよ。


うと、うと、うと…


太陽の日差しは暖かくてまるでご主人様の腕の中でねんねしているみたいだなあ。


ご主人様は僕が小さなときにおおきな川の近くで見つけてくれた。毎日辛いお水を飲んで、大きな男の人がくれる変な生き物を食べて一人で生きていたんだ。


水をのんでも喉が渇いていたんだ。何かが足りない、何が足りないのだろうと思って生きていたらご主人様がだっこしてくれたんだ。


それから僕はきれいな家の中に連れられて、たくさんの辛くないお水をもらって、温かいお水で体を温めてもらった。


温かいことは幸せなことなんだ。



チュンチュン、チュッ、チュッ、チュン


鳥さんの声に目を覚ます。


鳥さんが庭の木にとまっていた。そして鳥さんはイチゴがの鉢に止まった。


そして…危ない!


気付いた時には人間の姿になっていて、窓を開けて飛び出していた。あっちへ行け鳥さん!


鳥さんは慌てて空へ飛んで行った。


その瞬間


「ガチャ」


ご主人様がドアを開ける音がした。しまった。


あわてて猫の姿に戻る。人間の姿を見られてはいけない。


「マルク!ただいま!」


「おじゃまします。」


知らない人の声がした。


僕は家の中に入るタイミングを失っていた。


「マルクー?置いていったことを怒っているのかい?」


ご主人様、早く僕を見つけて。その人は誰?


「家の外に猫がいるよ。こいつがマルクじゃないのかい?」


ご主人様より大きくて、ご主人様より声が低い人。


「マルク!自分で窓を開けて閉めたのかい?変な猫だね。」


待ちわびたご主人様が庭へ出てくる。早く僕をだっこして。


だけど僕を最初にだっこしたのはご主人様じゃなかった。


「猫、捕まえた。」


ご主人様より大きな手でだっこされた。


「ンニャー――!」


横にいるご主人様は笑っている。


誰だお前!僕はそいつの顔を力いっぱい引っ搔いた。


「痛っ」


おかしい。ご主人様じゃないのにこいつの手は暖かい。こいつの胸も温かい。おかしい。ご主人様じゃないのに!


「ごめんね、びっくりさせて。」


そういうと今度はご主人様が僕のことをだっこしてくれた。


「ごめんね、この人とも仲良くしてあげてね。いい人だから許してあげてほしいな。」


「ニャ」


「あっ、このイチゴ!鳥が食べ残したんじゃないか!それともこの猫か?食いしん坊だな。」


「ニャー――――――」


鳥さんに食べられていたなんて!


「ニャー―」


僕はご主人様の胸から更に高いところに上る。ご主人様の方の上に登ろう。


「もったいないなあ。まだこんなに食べるところがあるのに。」


「そのいちご、ずっと水もやっていなかったのにこんなに育っているんだ。不思議じゃないかい?」


僕が毎日水をやっているんだからいちごが成って当然だ。帰れ!!


「実はこの猫チャンが水やりしてるのかも」


お前!余計なことを言うな!


もし人間になれることがばれたら、僕はご主人様に大切にしてもらえなくなる!今の暖かさがなくなってしまう!


「あはは、そんなわけないでしょ。」


「このイチゴ、俺が食べてもいいか?」


「えーー、なんかの食べ刺しでしょ?家の中にもっといいものが」


驚いたことにそいつは鳥さんの食べかけのいちごを口の中に入れてしまった。


「うん、美味しい。」


「あーーあ家にお菓子を用意していたのに。」


おかしい。そいつとご主人様は楽しげだ。ご主人様みたいに暖かい変な人間が、ご主人様と僕のこの小さな家に何をしに来たんだ。どうしていちごを食べたんだ。


いちごは僕がご主人様のために

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イチゴを盗まれた猫 蟹蛍(かにほ) @kuroiorange

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