第7話 五百年間の思い出話を
「……なるほど。帰りが遅いと思ったら、四天の方々と会っていたんですね」
怖い顔で城にて待ち構えていたナーシャに、俺は諸々説明した。
すると客人もいるのでという話か、ナーシャの怖い顔も砕けていき、まずは食事にしようという次第になったのだが……。
「やっぱりこの手の広い部屋での食事か」
次々にやってくる豪華な食事たち。
となればナーシャは部下たちに「覇王同士の食事」としてこの場をセットさせたのだろう。
堅苦しい食事作法は一応の心得がある。
面倒だが……炎天ノ国にも「郷に入っては郷に従え」と言う言葉がある。
乗ってやろう。
「それでグレン。学園初日はどんな感想を持ちましたか? 意見もあれば嬉しいのですが」
「……ん、そうだな。全体的に五百年前に比べて易しくなってるけど、それは時代の流れとしてまあ許そう。でも……魔術の実技が三年からってのはやっぱ温めすぎだ。せめて二年……いいや、一年の後半には齧らせるべきだ。事故が怖くちゃ魔術なんて扱えない。知識と同じくらい経験も魔術には必要だ」
「それは……やっぱり、たたき上げのグレンにはそう感じるのですか?」
「当たり前だ」
これはナーシャたち教師陣の感覚が、一般の……非魔術師から魔術師になる人間と乖離していることにも原因がありそうだった。
「ナーシャたちは王族なり貴族なりの出身で、物心つく前から魔術に親しんできた。でも俺みたいな元々は平民出身な男、みたいな奴からすれば『魔術ってのはこんな感じ』って経験作りは超重要だと思うぞ。イメージがはっきりしなきゃ展開する魔法陣だって曖昧になっちまうしな。回復系魔術の使い手を控えさせて、事故にも注意を払いつつ、実践させてみるってもんじゃないか?」
「ふむ……」
ナーシャは小さく唸った。
ちなみにナーシャが俺をたたき上げ、と言ったのは、俺が元々平民の出身だからだ。
なら何故覇王の継承権が巡ってきた、と五百年前はよく聞かれたが、覇王の印であり先代から引き継ぐ魔力核の継承は、ぶっちゃけ血筋は関係ない。
先代なり魔力核そのものに認められれば、それで継承権の獲得となる。
「ナーシャ、思考中に悪いが我もいいか」
黙々と食事を続けていたトリシュが、静かな声音でナーシャに語りかけた。
「はい、トリシュ兄さん」
「我が主、グレンについてなのだが。今現在、炎の覇王は三代目のグレンで絶え、次代に魔力核を引き継ぐことができずに空席、という形に世間ではなっている。グレンの転生については明らかにしないのか? グレンを生徒として学園に通わせてどういうつもりだと、一度問わねばと考えていたのだ」
「待てトリシュ。それについては問題ないとハヤテとの話で言ったぞ」
「それでも兄として、妹分の真意を確かめる必要はある」
トリシュの言葉に、他の四天もナーシャを見つめる。
ナーシャは咳払いの後に言った。
「グレンには、まずこの時代について知ってほしく思ったのです。私から個人的な頼みはしていますし、しばらく転生した彼の顔を見ていたい、という個人的な願いもありますが……。しかし何より、この学園生活はグレンのためになるのは間違いないでしょう。五百年後の現状を知った後なら、グレンも身の振り方を考えやすいでしょうし」
「ま、道理だな。俺も五百年後の世界について知りたいから学園へってとこはある」
「……分かった。主にも十分な益があるものとして、ここは収まろう」
トリシュはそう言い、食事に戻った。
するとナーシャも話を戻すと言わんばかりに、こちらを向いた。
「それでグレン。学園生活の話の続きですが……問題はありませんでしたか? 何かトラブルなどあれば、それも教えてもらえればと」
「ああ、クライナールとかいう貴族家の四馬鹿がまた来たぞ。奴らを撃退してからクレナにちょっと魔術の手ほどきをだな……」
……そう言った途端、ガタッとハヤテが立ち上がった。
緑風色の髪を少し逆立て、尋常ならざる殺気を放った。
お陰でその後ろを通りかかったメイドが「ひゃうっ!?」と跳び上がってしまった。
「おいハヤテどうした。他国の城で、客人が出す殺気じゃないぞ」
「でもグレン、仕方ないって。四大貴族クライナール家、確かそこってハヤテが面倒を見ているところだよ? 先代だか先々代の時に領地に迫った魔物の群れをハヤテが一掃して、その後も継続的に守っているって聞いたけど……」
大食いしつつ説明するカエデに、そうかそうかまずは飯を飲み込めと頷いていると。
「……クライナールの連中。恩を仇で返すか。グレン様に無礼を……!」
今にも飛び出して行きそうなハヤテを、俺はなだめにかかった。
……ついでにナーシャも「クライナールの子たちはまた……」と頭痛をこらえるような仕草をしている。
「落ち着けハヤテ。あんな連中、泳がせておけばいい。しかしシノビのハヤテが表立って人助けなんてどういう寸法だ? 五百年のうちにシノビも変わったのか?」
「……違います。単に……その」
「ハヤテはグレン様の意思を継ぎ、各地で人助けをして回っていた時期があったのですよ。隠密行動は部下に任せて、といった寸法でございます。かくいう儂らもかつてグレン様に救われた身。気持ちは分かるというもの」
ヴァルカンがそう言うと、ハヤテは「……そんなところです」と少し顔を赤くした。
「そっかそっか。ハヤテもずっと頑張ってくれたんだな……」
「あ、ボクだって頑張ったよグレン! 炎天ノ国の再興とか! グレンの封印を守ったりとか!」
「ああ、カエデもご苦労様」
……何というか、四天も各々、俺が不在の間に動いていてくれたらしかった。
ここはひとつ、皆を労いつつ話を聞きたいと、その日の夜は思い出話でふけていった。
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