第3章 山が動く(3)
3
聖竜暦1260年10の月12の日――
メイシュトリンド王国王都よりメイシュトリンド軍が
総勢1万。
本格的な軍事侵攻はこの世界ではいつ以来になるのだろうか。それも、『
漆黒の武具を纏った兵士たちは三軍構成となる。
第一軍フューリアス・ネイ大将軍が指揮する騎馬軍4,000。当然ながら騎馬用装備もすべて
第二軍キリング・メルキュリオ将軍
そして、第三軍4,000の先頭に立っているのが、シエロだった。
シエロ・クインスメア将軍。歩兵部隊『メイシュトリンドの悪魔』を率いるのが彼だ。
この者たちを目の前にしたものたちは、その戦闘力の圧倒的差にひれ伏し、絶望し、泣き叫び、恐怖に足がすくむであろう。すべての兵士が漆黒の鎧を
王都を発ったメイシュトリンド軍は国境の手前で一時停止し、関門の兵へ宣戦布告を通達した。
行軍は2日後、10の月14の日午後12時きっかりだ。その時間をもって国境関門を突破し、ゲインズカーリ本拠点王都ゲインズカリオを目指す。
宣戦布告の内容はこうだ。
『我、メイシュトリンド王国国王カールス・デ・メイシュは、度重なるゲインズカーリからの侵略行為に抗議し続けてきた。しかるに、ここまでその状況は改善されることなくいまだに継続されている。
事ここに至っては実力行使をもって
これより、ゲインズカリオ王城へ向けて行軍を開始する。
休戦の条件は国王カエサル・バルと女王ロザリア・ベルモット・エル・ゲインズカーリの投降以外はない。
交渉の決意が固まればいつでも使者を立て、投降の意思を示されよ』
――――――――
この報を受けたカエサル・バルは激昂した。
即刻、軍を編成し、国境へ向けて先遣隊を出立させた。その数20,000。そうして自身もすぐに本隊20,000を連れて後を追った。
女王ロザリアはこの状況を静観していた。この
確かに歴史上、『
11年前、ウィアトリクセン―ゲインズカーリ間で戦争を起こそうとした時、メイシュトリンドからの使者の提言によって侵攻を取りやめた経緯がある。その時の約定として、メイシュトリンドとゲインズカーリは友好関係国となったはずだった。
しかし
ロザリアは何度もこれを
カエサルはかつての東征での敗走の汚名をそそぐことに執着していたのだ。
事ここに至っては、ロザリアといえども打つ手がなかったと言える。ただ、じっとその時を待つだけだった。
――そして今まさにその時が訪れようとしている。
「すぐにミリアルドを呼んでまいれ。いつもの場所にいるであろう」
ロザリアは側近のものにそう告げた。
――――――――
青氷竜アクエリアスはただ見ていた。
もちろん助力を
しかし、
だから、ゆっくりと眺めていられるのだ。この国の行く末を、人間の可能性を。
そして、僕の見込んだ才能が開花する様を。
(さあ、僕に君の可能性を見せてくれ――ロザリア)
――――――――
ミリアルド・トゥーイットは王城の
このエルフの美青年は3年ほど前にふらっとまたゲインズカーリへ舞い戻ってきた。
里の母親もその天寿を全うした。最期をしっかりと看取ったミリアルドはまた仕事へ復帰したのだ。諜報員。それが彼の
ウィアトリクセン政務庁で、今や国家主席となった義兄アリソン・ロクスターのところへ戻ってすぐに、またゲインズカーリへ戻ってほしいと告げられた。
メイシュトリンドとの国境が相変わらず落ち着きを見せないからだ。その為、ゲインズカーリに潜って諜報活動を続けてほしいという事だった。
メイシュトリンドは『非保有国』でありながら『保有国』であるゲインズカーリ軍を打ち破った歴史上初めての国家となった。
今後国境付近が騒がしい状況が続けば、何が起きてもおかしくはない。
そう、アリソンはミリアルドに告げていた。
(人族どもの小競り合いなどいつものことだろう? そんなに気にするほどのことなのか――)
ミリアルドはその程度にしか見ていない。彼は諜報員としては優秀だが、そもそも政治的感覚については興味がないのだ。
ただ人族の女はいい。
容姿の美しさはエルフ族の足元にも及ばないが、秘め事に臨む彼女たちの豹変ぶりはまさしく快楽を貪る淫魔の様だ。醜く顔をゆがめ快楽に浸るその様に生への執着、一瞬の煌めきを感じる。
そんな彼の元へお呼びがかかった。
呼んだのは他でもない、現在の彼の「
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