第1章 豊穣の地グランアルマリア(2)
2
一方、
結局のところこの10年以上もの間、赤炎竜の気配すら消え失せていたのだがそれは結果論というものだ。
誰かが討伐してしまったという噂もない以上、必ずどこかに存在しているはずなのだが、誰もその姿を見かけたものはなかった。
それでも、グランアルマリアはこれに備えるしかない。グランアルマリア政府は、旧王国兵を解体し、グランアルマリア国軍を再編成した。この際、隣国のメイルシュトリンド王国から『漆黒の武具』を買い付けたと言われているが、世界的には真偽のほどは定かではなかった。
ともあれこういう噂は火のないところには生まれないものだ。
実際のところ、ヒューデラハイド王国という
同じく
このような噂が出だしたのは、先に述べた『特殊田畑開墾私有令』が実施されてしばらくしたあたりからだった。もともとヒューデラハイドの時代からこの土地の
田畑の開墾の速度もこれまでの数倍となった今、来年以降の収穫はこれまでの数倍以上を見込めることになるだろう。
この豊富な食料と、漆黒の武具の取引は互いの国家にとって利になるばかりか、他国への牽制にも大いに威力を発揮することになる。
今やこの二国の同盟関係は世界の約4分の1程度の土地を支配していることになるのだ。
他の国家たちは俄然危機感を募らせた。
現時点において、メイシュトリンドの『漆黒の武具』の戦闘力を上回る武器防具を保持している国家はない。聖竜ならこれに太刀打ちできるだろうが、いまだこの二つの「戦闘力」は相まみえたことはなく、『漆黒の武具』が聖竜に有効なダメージを与えられるのかは未知の領域であった。
もし仮に聖竜にすら有効な武具だとしたら――。
「保有国」たちが危機感を募らせるのも納得のいく話だ。
他の3つの「保有国」は急ぎ国力の増強を図る為、これまで属領や同盟国としていた国々を半ば強引に併合していった。
この過程において悪名をとどろかせたのは、四聖竜の一柱、緑土竜ウルペトラだった。レダリメガルダ帝国は東の新国家を牽制する目的も視野に入れ、積極的に隣国を併合しにかかった。併合に歯向かった国はことごとく緑土竜の吐く炎の餌食となって行った。
これにより南の大陸はレダリメガルダ帝国が約3分の2、残りをグランアルマリアという形で分け合うこととなった。
海を隔てた北の大陸は、ウィアトリクセン、ゲインズカーリの国境が固定されたまま動かない。ウィアトリクセンは自身の南の海に点在する島々との協力関係を取り持って、南のレダリメガルダの北侵を警戒している。北の地域の一番東に位置するメイシュトリンドは結果的にゲインズカーリと国境を挟んで対峙する形となっていた。
こうして聖竜歴1260年のこのころまでには、世界はおおかた4つの勢力に分割され、互いが国境を挟んで睨み合う形へと変遷していた。
10数年前にはまだ緩衝地と呼べる小国が存在していたのだが、このころになるとほとんどが併合され消滅していたのである。
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