第3章 第五の脅威(6)

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「いや、それは絶対に賛成できない――」

ゲラートはすかさず口をさしはさむと、さらに続けて、

「フューリアス将軍とキリング将軍はいかがかな?」

と、その威力を目の当たりにした二人の将軍に意見を求めた。


「私はあの装備はわが国固有のものとするべきだと考えております。決して他国に渡してはなりませぬ。あれほど強力な武具は明らかに次世代の武具です、明らかな性能差がある今だからこそ保持していることに意味があるものです――」

キリング将軍が初めに意見を述べた。


「私もそう思う。あれは異常すぎる。鉄製の鎧すら紙のように切り裂くことができたのだ。私もその威力に驚愕した。むしろ、これ以上使わない方がよいかもとさえ思っている」

フューリアスも同じ見解であることを示した。


「左様ですか。それほどのものだからこそ、自身の国家にだけ配備させておけば、自国の安全は保障されると、そういうお考えなのですね――」

リチャードはやや不満そうに眉間にしわを寄せて、

「それでは、『保有国』と何も変わらないではありませぬか。ただ単に、第五の脅威がこの世界に現れただけのこと。4つが5つになっただけのことですな。世界の均衡はまた、しばらくの間のみ、保たれる――そうであればよいのですがな」


「リチャードよ、そう、奥歯にの挟まったような言い方はやめぬか。二人の将軍とゲラートは、国家のためにこそその意見を述べる立場である。我も自国のことのみを考えるのであれば、同じ答えにたどり着くというもの――」

カールス王はそう言って一同を見回し、

「その上で、世を導くものの異名を持つそなたに聞きたい。今後の展望はどう考えておるのかということを、だ」


 一同はリチャードの様子をうかがった。

 このエルフの見立てはすこし物事に対する執着に薄いきらいがあるが、それは世界を結果ともいえる。

 つまり、私念が無いため、本質のみを見抜くことができるというのも事実なのだ。


「されば、申しましょう。このままでは今後の世界はまた混沌の戦乱の世となるでしょう。まずは、黒鱗合金ノワリミニウムの開発がほぼ完成したこと。これが引き金となります。すでに、先般のクルシュ川危機でその武具の性能差は全世界の知るところとなっております。そう遠くない未来、この技術の獲得を狙って、メイシュトリンドへ何らかの圧力がかかることは必定です。潜入、侵略、強硬外交……。様々な方法で、黒鱗合金ノワリミニウムの技術を各国は手に入れたがるでしょう。『保有国』はもちろんですが『非保有国』も同様です。つまり、メイシュトリンドは世界各国の“標的”となるのです。おそらくこの国ではこれを守り切ることは不可能です。いずれ他国にこの技術は渡ることになります。その時、メイシュトリンドは存在しているでしょうか? 疑わしいものですな――」

 ここで一旦、口上を止めて、周りのものの反応を見ると、一同は苦虫を噛み潰したように黙っている。

 その様子を見て一息吐くと、リチャードは続けた。

「ゲインズカーリのような国が存在していては、世界はいつまでたっても安寧を得られませぬ。それは、人類の力ではどうにも対抗しようがない聖竜の力をもってしても、その抑止力を逆手にとってまで、自身の欲望に突き進む存在がある限り戦乱は続くことが証明された今となっては自明の理であります。であればどのようにすれば安寧が訪れるのでしょう――」


「そ、それは――、無理だ――」

キリング将軍がつぶやいたのをリチャードは聞き逃さない。


「そうですな。人類には無理なことかもしれませぬな――。私は一つの結論を持っております。現状では荒唐無稽こうとうむけいな話でありますが、そうなればあるいは人類は一つにまとまることができるかもしれないという可能性の話です」


「それは、どういうことであるか?」

カールス国王が先を促す。


「人類外の脅威に全人類がさらされた時です。こうなれば、人類はその生き残りをかけて一致団結して、人類外の脅威に立ち向かわなければなりませぬ。その結果、力及ばずして滅ぼされるかもしれませぬがな――。ただ、その様な状況が来ればあるいは……、とも思うのです。しかしながら、おそらくそうなってからでは間に合わないのでしょう。そうなる前に一致団結できていなければ、人類外の脅威が襲ってきた時、これに対応することはおそらく不可能、滅亡するしか道は残されておりませぬ」


「そんな脅威が有り得るというのですか、先生は――」

ゲラートは思わず乗せられてしまった。

 言ってしまってから、ある事に気が付き「しまった」と思い、すかさず続ける。

「聖竜――。そうか、聖竜だって人類外の脅威ではないか――!」


「さすが、ゲラート殿。左様。聖竜こそ人類外の脅威、本来立ち向かわねばならず、越えなければならない人類共通の障害であります」

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