第2章 歪んだ均衡(5)
5
聖竜暦1248年10の月10の日――
黒雷竜ケラヴナシス・『保有国』ウィアトリクセン共和国首都ウルダーザ、政務庁舎内、国家主席執務室――――
「ゲインズカーリ王国が、メイシュトリンド王国へ侵攻を開始したとの報告が上がってまいりました。ことはうまく運んでいるようです」
「これで、しばらくはこちらへの脅威は削がれるというもの。メイシュトリンドには申し訳ないが、我が国の“盾”となってもらおう」
「ゲインズカーリに忍ばせてある諜報員がよくやってくれています。うまくあの強欲女を誘導したようです」
「あの女の無類の男好きは有名な話、
「は、陛下の策が見事にはまりましたな」
先程から話している二人は、ウィアトリクセン共和国国家主席ビュルス・ハイアラートと、その側近アリソン・ロクスターの二人だ。
「前国家主席の折に締結した“
ビュルスはそう言って背もたれに少し体を預けながら切り出す。
「互いに竜の力を保持した国は双方の利得や世界の崩壊を危惧して戦端を開かないという抑止力が働く――、確かにそのような考えに至る“経緯”は納得できる。だが、人類はそれほど賢くはない。特にあの人族どもは、な。どこかの誰かが少しでも欲に傾いたり、怖れに心を支配されれば
「は、
アリソンがあとを受けた。
「そうなのだ。少し賢く、計算高いものであればあるほど、このような状況では手を出せなくなるのだ。『
ビュルスは
「その通りです。結局は“緩衝地”たる『
さらにアリソンは続ける。
「確かに『
「あとは、メイシュトリンドがしばらくの間、耐え忍んでくれれば、ゲインズカーリも軍を退かざるを得ない。そうなれば国力は衰え、またしばらくの間おとなしくなるだろう。こちらへの版図の拡大も見送るほかなくなるというわけだ――」
このエルフ族のウィアトリクセン国家主席、ビュルス・ハイアラートはそう言ったきり、表情に陰を落として押し黙った。
(しかし、このままでは聖竜の晩餐の解決法には至らない。何か方法はないものか――。どうにかしなければ、人類は食物連鎖の頂点にはなれない。そうなれなければ未来永劫、真の『平和』など訪れないのだ――)
――――――
その二日ほど前の夜――8の日深夜。
ゲインズカーリ王国王城、王女の寝室――。
「あの体力馬鹿は遠く東のかなたに消え去ったわ。今日こそはゆっくりと我を癒してくれるのよね?」
寝室のベッドに腰かけた王女、ロザリア・ベルモット・エル・ゲインズカーリはそういって、潤ませた瞳を目の前の美しいエルフ族の男娼にむける。
「ああ、陛下。わたしには畏れ多く、こんな、こんな大それたこと……」
エルフの男はすこし俯いて怯えたような表情を
「おまえが言ったのよ。あの人が遠くに行ってしまえば、我と長く一緒に居られるのにと……。だから、我はそのように仕向けた。
ロザリアはそう言って、羽織ったローブの前をはだけて見せた。
(これで、俺の仕事も終わりだ。今日は存分に味わわせて頂こう。そして、それが終わったらさっさと祖国へ帰ろう。いつまでもここにいるのは危険だからな――)
このエルフの男娼はそう頭で考えながら、王女の元へ近づき、ベッドへ倒れ込んだ。
――――――――
こんにちは、永礼経です。
えっと、今回の話で少し、性的な描写があるのですが、これってどのぐらいまでが全年齢なのだろうか?
と、考えてこういう表現になりました。
このぐらいまで行くと、R15とかになるのかな?
よくわかりません。
今後もしかしたら訂正または削除されるかもしれませんので、ご留意ください。
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