第2章 歪んだ均衡(2)
2
「
リチャード・マグリノフの目的は、黒鱗石に『光』の素粒子を吸収させ、『光』と『闇』の両方の素粒子をもつ混合物を作ることだった。
これまで素粒子は、火・水・土・風の4つだと考えられていた。実際、四聖竜はその4つの素粒子の顕現である。
つまり、光と闇の顕現たる聖竜はいないのだ。
四聖竜は互いを攻撃しない。その理由は明白である。戦闘力が同じ程度のもの同士の戦闘は、決着がつかないか、同士討ちかのどちらかになるからだ。
いずれにしても、結果として、互いの戦闘に巻き込まれたこの世界に復旧不可能なダメージが残るか、又は、自身の消滅を意味する。
どちらも望まぬ結果である。
つまりは、素粒子の顕現のみが四聖竜に対抗しうるたった一つの兵器となるということだ。
リチャードは、5つめの素粒子及びその顕現の存在を仮説とし、それを探求した結果、『光』の素粒子を発見した。その素粒子は非常に不安定で短時間で消失してしまう性質を持っていたため、顕現として形作られなかったのであろう。
もしこの素粒子を顕現化できれば、四聖竜と同等の戦力となるのではないか?
そう考えたリチャードはいかにして『光』の顕現を生み出せるかを思案した。
『光』があれば『闇』が生まれることは、自然の摂理である。つまり、この世界には『闇』の素粒子又はその顕現が存在するはずなのだ。
そこでふと思い出す。光を通さない鉱石のことを。これが
この鉱石は、西のウィアトリクセン共和国で産出される鉱石で、あらゆる光を通さない、つまり、吸収してしまう性質を持っていた。
まさしく、これこそが『闇』の素粒子の顕現であったのだ。
これで、『光』と『闇』、両方の素粒子は発見できた。
しかし、四聖竜を圧倒するにはそれぞれ別々では足りない。これの混合物は作れないだろうか?
そこでまず、黒鱗石に『光』の素粒子を消失させずに取り込ませることができないかと考えた。
が、これはことごとく失敗に終わった。さすがに『闇』の顕現たる黒鱗石内部では物量で劣る『光』の素粒子は存在を維持することはできなかった。
いろいろな方法を試したが、未だに実現できていない。
そこで、もう一つの可能性を追った。
黒鱗石で武具は作れないか?
実は、これまでの研究の結果、もうひとつ判明していることがある。
『光』の素粒子がどうして少量しか大気中に存在しないかの研究の結果判明したことなのだが、『光』の素粒子はわれわれ人類のなかに取り込まれているということだ。
物質界においては4つの素粒子の存在ですべて説明がついた。この4つの素粒子が微妙なバランスで結合して様々な物質が生成されているのである。
しかしこれで説明がつかない問題が残る。
それが、精神の存在だ。
われわれ人類の中には『精神』というものが存在する。これは明らかに物質ではない。つまり、4つの素粒子の存在のみでは、説明がつかない。
そもそもリチャードが、5つ目の素粒子の存在を仮説立てたのはこれが発端でもあったのだ。
であれば、
高次に『光』の素粒子を内包する人類が存在するのかもしれない――――。
もし、そのような存在があれば、そのものが黒鱗石の武具をまとえば四聖竜に対抗しうる戦力となるのではなかろうか。
その可能性も考慮して、黒鱗石の武具作成にも研究を重ねた。
そうして、ドワーフ族の高精度な鍛冶技術をもって、一つの合金が生まれたのである。これが、
残念ながら、黒鱗石を武具に加工することは難しかった。削り出しを行って武具の形を作成したとしても、強度不足で、武器として活用できなかった。
そこで、鉄鋼のなかに含有させる方法を模索した。
研鑽を重ねた結果、これが完成した。
究極まで黒鱗石の含有量をあげた鉄鋼、黒鱗合金ノワリミニウムの誕生だ。
そしてここで人類は、その研鑽に対する思いがけない褒賞を得ることになる。
ノワリミニウムの強度はこれまでのどんな合金よりも高かったのだ。合金の強度はつまり武器の威力に直結する――。
これが何を意味するか、それがもうすぐ明らかになる。
―――はたして、黒鱗合金製武具を装備したメイシュトリンド王国軍1万が王都から西へ向けて出立した。
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