第27話

 それから私たちは、無駄口をたたかずに、お互い呪文を唱え合い、攻撃魔法と防御魔法をぶつけあった。時間にして一分にも満たないその短い戦いの中で、私は驚嘆していた。……いや、感動していたと言い換えてもいいかもしれない。


 何に感動したのかと言うと、エミリーナの魔法をコントロールする技術の高さだ。魔法の強さ――いわゆる魔力というやつは、生まれついての才能に起因する要素が大きいのだが、その魔力を精密にコントロールすることは、才能よりも、日々の鍛錬が重要になる。毎日毎日、どれだけ人より努力したかが、コントロール能力成長の鍵なのだ。


 私はいつの間にか、憐れんだ瞳をエミリーナに向けていた。


 どうして、彼女を憐れむの?


 わからない。


 昨日は殺されかけ、今もまた、凶悪な攻撃魔法で襲われているのに、何故憐れむの?


 わからない。


 でも、なんだかエミリーナがかわいそうで、仕方なかった。


 そんな私の目つきが気に入らなかったのか、エミリーナは苛立たしげに言う。


「何よ、その目。なんでそんな目で、私を見るの」


 言ってから、エミリーナはまた、攻撃魔法を飛ばしてくる。

 私は無言でそれを防御し、じっとエミリーナを見る。


 エミリーナは、舌打ちをした。

 そして、吐き捨てるように言う。


「やめなさいよ、その目、イライラする」


 そしてまた、攻撃する。

 私もまた、防御する。


「ねえ、やめてよ、そんな目で見ないで」


 また、攻撃がきた。

 当然、防御する。


「やめろって言ってるのよ! なんなのよ、あんた!? 私を見下してるの!?」


 私は、首を左右に振った。

 そして、静かに口を開く。


「違う、違うわ。私、あなたのこと、凄いと思ってるのよ。学校で教わってもいない攻撃魔法を、これほど緻密にコントロールするためには、それこそ、一日中魔法のことだけを考えてるくらい、努力しなきゃいけないはずよ」


 エミリーナは、叫んだ。


「当たり前よ! 私は一日中魔法のことだけ考えて、考えて考えて考えて考えて! 毎日くたびれ果てるまで努力してるんだから! それが何だっていうのよ!?」


 そこでやっと、私は自分がなぜ、エミリーナを哀れに思うのか、理解した。

 私はゆっくりと、想いを吐露するように、言葉を紡いでいく。


「あなたの魔法をこうして受けていると、エミリーナ、あなたがとてつもない向上心に溢れた人で、どれだけ努力したのか、どんな言葉よりもよくわかる。あなたなら、不正入学なんて間違った方法を選ばなくても、いずれは優秀な魔法使いになって、輝かしい未来を手にすることができたんじゃないの……?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

婚約者の幼馴染に殺されそうになりました。 小平ニコ @n_kodaira

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ