第25話

ここからは再び、アンジェラの視点で物語が進みます。

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「やったわ……これなら、動かぬ証拠になる……!」


 印刷された履歴の数々を眺めながら、私は思わず、独り言を述べた。


『専用の機械』が吐き出した履歴には、これまでディアルデン家がおこなってきた不正入学に関する情報が、詳細かつ大量に記されており、決定的な証拠をつかんだ喜びよりも、我が国で最も権威ある教育機関である王立高等貴族院で、これほどの不正が横行していた事実に、私は愕然とした。


 なんせ、ガンアイン氏がディアルデン家当主となったここ数年間だけで、両手の指では数えきれないほどの生徒が、不正な方法で入学を許可されていたのだ。


 さらにショックだったのは、チェスタスのお父様――皆から尊敬を集めていた前ディアルデン家当主の時代にも、数こそ少ないものの、不正入学のための書類を作った履歴があったことだ。


 この情報が明るみに出れば、ディアルデン家はもうおしまいだろう。ガンアイン氏は当然厳罰に処せられるだろうし、チェスタスもただではすまないに違いない。


 今となっては、チェスタスのことなど好きではないが、それでも少し前までは仲良くしていたのだ。私の行動によって、彼から何もかも奪ってしまうことになってしまうのは、心苦しい。


 ……だからと言って、知ってしまった事実を隠すわけにはいかない。間違っていることは、間違っているのだ。私は決意を込め、印刷された大量の履歴を抱えると、地下室を出ようとした。


 その時、閉じられていた地下室の扉が急に開き、驚きで声を上げてしまいそうになる。隠れる場所も、時間もなく、私はその場に立ち尽くした。


 ……開かれたドアの向こうに立っていたのは、エミリーナだった。


 彼女は、私が抱えた『履歴を印刷した書類』に目をやり、それから大きなため息を吐き、言う。


「恐れ入ったわ。昨日、あんな目に遭ったのに、すぐにディアルデン家にやって来て、不正の証拠を掴もうとするなんて。その並外れた根性と行動力、尊敬に値するわね。いや、本当に、参ったわ」


 私はエミリーナに気圧されないように、彼女の目を睨み、言い返す。


「尊敬に値するだなんて、心にもないことを。私のこと、殺そうとしたくせに」


 するとエミリーナは、心外そうに肩をすくめた。


「あら、私、前からあなたのこと、尊敬してたのよ。だってあなた、凄く真面目に勉強して、魔法の研究をしてるじゃない。向上心を持って真剣に頑張ってるってだけで、敬意を持てるわ。……王立高等貴族院には、自分たちが恵まれた環境にいることにすら気づいていない、やる気のないお嬢様お坊ちゃまがいっぱいだから、なおさらね」

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