第24話(エミリーナ視点)

 アンジェラは、私にこう言った。


『あなたにも事情があるのかもしれないけど、裏口入学なんて、間違ってるわ』


 ……何が『間違ってる』よ。


 間違ってるのは、この国の大人たちの方よ。


 間違った大人たちが作った、間違った制度。


 そんなものに、馬鹿正直に従ってたら、どんなに頑張ったって、望んだ場所に行くことはできないのよ。そして、特別な場所にいる、特別な人たちを羨んで、地べたを這いまわる虫みたいな、くだらない一生を過ごすだけ。


 ……私はそんなの、ごめんだわ。

 どんな手段を使ってでも、夢をかなえてみせる。


 王立高等貴族院を卒業して、王宮に入って、王様にも気に入られて、落ちぶれたルブラン家を再興するのよ。そこから私の、本当の人生が始まるんだから。


 机の上。

 古ぼけた本を、手に取る。


 かつて上級貴族だった。曽祖父の日記だ。

 そこに書き記されている一文が、私の心をつかんで離さない。


『王宮の天窓から眺める空は、この世の何よりも美しかった』


 曽祖父は、王宮での優美で誉れ高い生活を、回想を交えて文章で綴った後、最後にそう記したのだ。


 ……私も、その天窓から、空を眺めてみたい。

 特別な人間だけが見ることのできる、特別な景色。


 私も、特別な人間になりたい。

 いや、なるのよ。

 必ず。


 ……アンジェラのことは、どうするべきだろう。


 気の強いあの子のことだから、殺されかけたくらいで、怖がって引っ込んじゃうようなことはないでしょうね。案外、すぐにでもディアルデン家に乗り込んで、不正入学の証拠を探そうとしているかもしれない。


 まずいわね。


 私も人のことは言えないけど、チェスタスもガンアインもおしゃべりだから、アンジェラに余計なことを喋ってしまうかもしれないし、何よりあのお屋敷には、不正入学に関する書類を改ざんする『専用の機械』がある。あれを調べられたら、面倒なことになるわ。


 昨日、チェスタスには『アンジェラに気をつけろ』って、何度も言い聞かせたけど、あいつ、面倒くさそうな顔で『大丈夫だよ、たぶん』としか言わなかったし、もの凄く不安だわ。


 はぁ……念のため、ガンアインに、直接進言しておこうかしら。せっかくの休日に、あんな下劣な男に会わなきゃいけないと思うと憂鬱だが、今はそんなことを言っている場合じゃない。


 この時間ならまだ、ガンアインは屋敷にいるはずだ。


 あの男のいやらしい目つきと手つきを思い出すだけでうんざりするが、今は緊急事態だ、仕方がない。休日の朝だから、チェスタスはまだ寝てるだろうし、彼の相手をしなくて済むだけマシと思っておくとしましょうか。

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