第23話(エミリーナ視点)

 昨日は、うかつだった。

 あまりにも、うかつだった。


 自分の愚かさに腹が立ち、私は大きく舌打ちをする。


 ……まさか、あのアンジェラが魔法で盗み聞きしているとも知らず、不正入学のことをペラペラと喋ってしまうなんて。大失敗だ。私としたことが、予想以上に王立高等貴族院での生活が上手くいっていて、少し浮かれていた。


 好きでもない幼馴染のチェスタスに色目を使い、いやらしいガンアインのご機嫌を取って、やっと、やっと、王立高等貴族院に入ることができたのに。すべては、これからなのよ。こんなところで、浮かれてどうするのよ、馬鹿。


 さらにうかつだったのは、アンジェラを殺し損ねたことだ。


 でも、まさか、アンジェラが落下した先に、たまたまメイナード先生がいて、魔法で彼女を受け止めるなんて。そんな奇跡みたいな偶然、ありなの?


 やっぱり、生まれた時から特別である上級貴族は、幸運にも恵まれているのかしら。……落ちぶれた下級貴族の私とは違って。


 卑屈な考えと妬みが体中を駆け巡り、それはやがて、破壊衝動となった。

 私は攻撃魔法を発動させ、たまたま目についた自室のゴミ箱を木っ端みじんにした。


 よし。

 コントロールも、破壊力も抜群だわ。

 低級のモンスターくらいなら、一撃で仕留めることができるレベルね。


 この魔法は、『学生が使うには危険すぎる』という理由で、王立高等貴族院では教えられていない魔法だ。私は必死に努力して、半年以上前に、独学でこれを習得し、今では自由自在に使いこなせている。……この攻撃魔法を使って、弱い者いじめをしていた卑劣なチンピラを、こらしめてやったことだってあるんだから。


 私は、優秀よ。

 度胸だってある。


 でも私は、『天才』じゃない。

 ……残念だが、『天才』と自認できるほどの才能は、私にはない。


 しかし、『秀才』ではあると、私は思っている。


 少なくとも、王立高等貴族院の、平均的なレベルの連中――甘やかされて育った上級貴族のお嬢様お坊ちゃまと比べたら、魔法の才能も、学力も、向上心も、私の方がはるかに上だ。


 なのに。

 それなのに。


 受験資格すら与えられないなんて、おかしい。


 とびぬけた『天才』ではないからって、特待生の審査すらしてもらえないなんて、おかしい。


 そもそも、王立高等貴族院を卒業したもの以外は、王宮に勤めることができないのが、おかしい。


 能力も家柄も試験成績も優秀な、一握りのエリートだけを集めて王宮で働かせているのに、そのエリートたちの中から、毎年何人かは、立場を悪用して横領したり、不祥事を起こす者が出て、処罰されている。


 十年ごとに数人とかならまだわかるけど、毎年何人も処罰者が出るなんて、異常だわ。それって、現行の教育制度と採用制度が間違ってる、何よりの証拠じゃない。

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