第22話
ディアルデン家は、壁や天井、果ては出窓の端っこまで掃除が行き届いており、ホコリが目立つところなど、一つもない。なぜなら、チェスタスは大の綺麗好きであり、少しでもホコリが溜まっていると、我慢ならないからだ。
だから、使用人たちにはいつも、口を酸っぱくして『掃除を怠らないように』と言い渡している。……それなのに、いくら地下室とはいえ、あれほど露骨にホコリが積もっているのを、使用人たちが見過ごすだろうか?
あれはたぶん、見過ごしていたんじゃない。
命令されているのだ。『あそこには近づくな、ドアノブに触れることすら許さん』と、チェスタスよりも偉い人物――現ディアルデン家当主――ガンアイン氏に。そしてチェスタスも、地下室で何がおこなわれているか知っているから、文句を言わないのだ。
私は、心が急かすままに地下室の前に向かい、改めてホコリがたっぷり乗ったドアノブをよく見る。……これ、自然に積もったホコリじゃないわ。なんてこと、いくら地下で薄暗いとはいえ、じっくり観察すれば、どこかからかき集めたホコリを乗っけただけだって、ハッキリ分かるじゃない。
明らかに、『この部屋には長い間、誰も入っていませんよ~、だから、怪しくありませんよ~』と主張する、わざとらしいまでの偽装工作だ。悔しいっ、こんなのに、まんまと引っかかってしまったなんて。
ほんの少し前の自分の洞察力に呆れながら、私はホコリを払い、ドアノブを捻った。……む、さすがに、鍵がかかってるわね。でも無駄よ。私、こういうのを解錠する魔法、得意なんだから。
呪文を唱え、三十秒ほど集中すると、ガチャンと重たい音を立てて、扉は開いた。よーし、楽勝楽勝。
……得意な魔法が『盗聴』と『解錠』ということで、人に聞かれたら変な女だと思われそうだが、どっちも、けっこう難しいレベルの高等魔法なんだからね!
さて、話を戻そう。
私は静かにドアを開け、同じように静かに閉めると、中を物色して回る。
……あった。
部屋の隅。
書類の改ざんに必要な『専用の機械』が、まるで私が見つけるのを待ってくれていたかのように、どっしりと鎮座している。そのサイズは、思っていたよりも遥かに巨大であり、中型どころか、大型の酒樽より一回りは大きい。
直感に従って行動し、予想通りの場所に目的の物を見つけた達成感に心が震える。……おっと、待って待って、達成感に浸るのはまだ早いわ。
地下に降りるところは誰にも見られていないはずだが、それでも、あまり長居はしない方がいい。早速、改ざんの履歴をチェックしないと。
私は『専用の機械』を操作し、使用履歴の最初から最後までを徹底的に調べ、そのすべてを印刷していった。
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