第21話

「ほほ、ほほほ、そんなに心配そうな顔、しなくていいんだよ。普通は駄目なんだけど、きみなら、お金とは別の方法を考えてあげてもいい」


「お金とは別の方法……ですか?」


 聞き返した私に、ガンアイン氏はゆっくりと頷く。


「いやね、正直言って、ワシはずっと前から、きみのこと、いいなって思ってたのよ。未成熟ながらも、そそるボディライン、そして、思わずハッとするような美貌。いやいや、たまらぬな。ほほ、ほほほほ……」


 それから、私の肩を撫でていた手をもゆっくりと動かし、彼の大きな手は、私の胸元へ……


「やめて!」


 触れられそうになった瞬間、私はガンアイン氏の手を強く跳ねのけた。


 もう限界だ。

 これ以上、こんな下劣な男に、小指の先ですら触られるのは我慢ならない。


 私は自分の腕で自分を抱きしめるようにして、ガンアイン氏を睨んだ。しかし、ガンアイン氏は気分を害した様子もなく、ニタニタと笑い、舌なめずりをする。


「ほほ、ほほほ、びっくりしちゃったかな? いいねえ、その、強気な瞳。ワシ、従順な子も好きだけど、多少やんちゃな子も、それはそれで好きなのよね、ほほ、ほほほほほほほ」


 陰湿で卑猥な笑みに、私の生理的嫌悪感は頂点に達した。

 大声で「失礼します!」と叫び、部屋を飛び出す。


 飛び出してから、結局のところ、何の証拠も押さえることができなかったことに気づき、またしても私は、悔しさに唇を噛んだ。


 ……いや、しかし、あの部屋には、書類を改ざんするための『専用の機械』はなかったのだし、あれ以上あそこにとどまっていても、ただただ辱めを受けるだけで、何の意味もなかったに違いない。


 もしかして、『専用の機械』は、この館にはないんだろうか?


 ディアルデン家ともなれば、たくさんの不動産を所有しているだろうし、どこかの小屋に隠している可能性もある。うーん……でも、たぶん、そんなことはない……と思う。


 なぜなら、不正がバレそうになった時は、証拠隠滅のため、大急ぎで『専用の機械』を破壊する必要があり、最悪の事態に備えて、いつも手元に置いておきたいと考えるはずだからだ。


 しかしそれは、『私ならそう考える』というだけのことで、ガンアイン氏もそう思うかは、分からない。それでも、私の直感が、『専用の機械』はここにあると叫んでいる。


 どこか、普通なら、間違っても入らないような場所に……


 その時、天啓のようなひらめきが、頭の中で輝いた。


 そうだわ。

 さっき、入るのをやめた地下室。


 今にして思えば、あそこ、なんだか変だった。

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