第17話

 何故なら、ドアノブにはうっすらとホコリが積もっており、相当長い間、使用された形跡がなかったからだ。軽くホコリを払い、開けてみようかとも思ったが、やめておくことにした。今はとにかく、時間が惜しい。明らかに人が入った形跡のない場所を調べている余裕はない。


 私は階段を上がり、今度は当主の部屋に向かう。


 ディアルデン家現当主――チェスタスの叔父であるガンアイン・ディアルデン氏は、いるだろうか?


 現在、朝の8時45分だから、一般的な上級貴族なら、そろそろ仕事をするために、王宮へ行かなければならないはずだが、ガンアイン氏は確か、王宮勤めはしていないはずだ。だからたぶん、部屋にいるだろう。


 当主の部屋の前。

 ご立派なドアを、私は小さく、二度ノックした。


「どうした、何か用かね」


 中から、男性にしては甲高い声が聞こえ、一瞬ビクッとなる。


 これは、ガンアイン氏の声だ。

 やはり、彼は私の予想通り、まだ室内にいるようだ。


 普段なら、あまりお会いしたくないタイプの方ではあるが、今日ばかりは別だ。直接話をすれば、不正入学に関する手がかりをつかむことができるかもしれない。


 私は一度だけ深い呼吸をして、言う。


「アンジェラです。チェスタスに会いに来たのですが、まだ眠っているようなので、話し相手になってもらえませんか? ガンアインおじさま」


 チェスタスがまだ眠っているというのは、適当に言ったわけではなく、事実だ。いや、別に、彼の寝顔を確認してはいないが、チェスタスはお休みの日はいつも、お昼近くまで目を覚まさないのである。


 部屋の中から、ややくぐもった、嬉しそうな笑い声が聞こえる。


「ほほ、そうか、そうか。では、中に入りなさい」


 私は、「失礼します」と言い、室内に入る。

 荘厳な調度品がこれでもかと陳列された、ハデハデな部屋だった。


 以前のディアルデン家当主――チェスタスのお父様がまだご存命だった頃、何度か中に入れてもらったことがあるが、あの頃は、もっと落ち着いた、上品な雰囲気の部屋だったのに……


 今の、この部屋の有様を見たら、そのあまりの変貌ぶりに、前ディアルデン家当主はきっと、大いにショックを受けるに違いない。


 そんな呆れ気味の私とは正反対に、ガンアイン氏は満足げに目を細めた。

 彼は、過度な美食のせいででっぷりと太った身体を揺らし、笑う。


「ほほ、ほほほ、やあ、アンジェラ、いらっしゃい。チェスタスの奴は、まだ寝ているのか。まったく、こんなに可愛い婚約者を待たせて、困ったやつだ。ほほほほ」

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