第18話
何がそんなにおかしいのか、ガンアイン氏はしきりに『ほほほ』と笑い、私の全身を、舐めまわすように見る。その目つきに生理的嫌悪感を覚えながらも、私は必死に愛想笑いを浮かべ、言葉を紡いでいく。
「い、いえ、いいんです。お休みの朝に遊びに来た私が悪いんですから。それに、これまであまり話す機会のなかったガンアインおじさまとこうしてお話ができて、とても嬉しいです」
「ほほほ! なかなか可愛いことを言う! お世辞でも嬉しいよ」
「お世辞だなんてそんな……私、ずっとおじさまと、お話をしてみたかったんです」
心にもないことを言いながら、私はチラチラと部屋の中を伺う。書類の改ざんに必要な『専用の機械』は、中型の酒樽程の大きさがあるので、戸棚にしまっておくようなことはできないのだから、もしもこの部屋にあるのなら、目で確認することができるはずだ。
……駄目だ。
それらしいものはない。
目的のものを発見できなかった今、一刻も早くこの部屋を立ち去りたかったが、さすがに、何の収穫もなしに帰るわけにはいかない。少しは、不正入学に関する情報を引き出さないと、ここまでやって来たことが全部無駄になってしまう。私は覚悟を決め、口を開く。
「ところで、ガンアインおじさま。おじさまは、色々な事業をなさっているそうですね」
「ん? ああ、そうだよ。時代は変わった。これからは上級貴族といえど、ただふんぞり返っているだけでは、ぜいたくな暮らしを維持することができなくてねぇ。商人のように、さまざまな方面の事業に手を出していかないと駄目なんだよ」
「さまざまな方面って、具体的には、どんな事業なんですか?」
「そうだねえ。少し前までは、飲食関係や交易を中心にやってたんだけど、これらは競争相手が多くて、なかなかうまくいかなくてねぇ、最近はちょっとばかし規模を縮小しているのよ。で、今一番力を入れているのは、教育関係の事業だ。我がディアルデン家には色々とコネもあるし、こいつが一番向いていると思ってねぇ」
教育関係――
私はガンアイン氏には聞こえないように、小さな音で唾を飲み、問う。
「教育関係ってことは、私の通っている、王立高等貴族院にも、何か、その、出資とか、されているんですか?」
「ん~? んん~……出資とか、そういうんじゃないんだけどね。ワシはね、あの王立高等貴族院の理事長と、けっこう仲がいいのよ、昔からね。それで、まあ、色々やってるのよ」
「色々って?」
「んん~、それはきみぃ、いくら甥っ子の婚約者とはいえ、簡単には話せないよ。事業に関することだからね」
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