第16話

 翌朝。

 私は覚悟を決めてディアルデン家へ赴いた。


 正門には二人の門番さんがいるが、チェスタスの婚約者である私は顔パスである。にこやかに挨拶して邸内に入ると、チェスタスの部屋には向かわず、不正入学の証拠を求めて、館の中を色々と調べてみることにした。


 ……しかし、『不正入学の証拠』とは、具体的にどういうものだろう?


 まず思いついたのは、入学の際に提出する書類に関することだ。


 本来であれば、特待生として選抜される『天才』としての基準を満たしていない者を、あれこれ手を加えて、『偽の天才』に仕立て上げて入学させているのだから、生徒の個人情報に関する書類に、何らかの改ざんをおこなっているはずだ。


 王立高等貴族院で使用されている書類は、魔法の技術を用いた特殊な紙でできており、簡単に文字を書き換えることはできない。なので、書類の改ざんには、『専用の機械』が必要になる。


 その『専用の機械』は、国の認可を受けた施設以外では所有することが禁止されており、王立高等貴族院には一つもない。……もし、このディアルデン家で、『専用の機械』を発見できたなら、チェックしてみる価値はあると思う。


 何故なら、その『専用の機械』には、『いつ、どのようなことに使用したか』という履歴が残る仕様になっているからだ。……昔、税金に関する重要書類の改ざんが、組織ぐるみでおこなわれたことがあり、また同じようなことが起こった際、罪の立証が容易になるように、そういう仕様にしたらしい。


 さて、長々と説明したが、話をまとめると、その『専用の機械』を見つけ、使用履歴を調べることが、私のミッションだということだ。


 チェスタスの婚約者である私は、ディアルデン家の使用人たちとも顔見知りであり、こうやってお屋敷の中をうろついていても、誰も怪しんだりしない。


 しかし、長々とあちこちをフラフラしていたら、流石に何か妙だと思われるだろう。なるべく短時間で、最も『専用の機械』がある確率が高い場所を探さないと。


 思いつく場所は、二つ。


 屋敷の地下室と、ディアルデン家当主の部屋だ。


 まずは、探すのが楽そうな、地下室に向かう。


 ……以前に一度だけ、チェスタスに地下室の中を見せてもらったことがある。


 その時の記憶はうろ覚えだが、何に使うのかよくわからない機械がいくつかあったことだけは覚えている。もしかしたらあの中に、現在私が探している『専用の機械』があったのかもしれない。


 キィキィと音を立てる古めかしい階段を降り、私は地下室の前に立った。そして、ドアノブに手をかけようとして、すぐに『やっぱり、ここは違うかな』と思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る