第15話
……よし、決めたわ。ちょうどいいことに、明日は学校もお休みだし、ディアルデン家に行って、何か、不正の証拠を探してみましょう。私は決意を込め、自分の意思をメイナード先生に話した。
先生は驚き、少しだけ悩んでいたが、ゆっくりと頷く。
「そう……ですね。不正の証拠をつかむには、ディアルデン家に出入りができるアンジェラさんに、頑張ってもらうしかないかもしれません。しかしくれぐれも、無茶はしないように」
「わかってます。もう殺されそうになるのは嫌ですから」
冗談のつもりだったが、メイナード先生の整った眉が心配そうに顰められたのを見て、『殺されそうになる』というフレーズを出したのは失敗だったと反省する。先生はまた、しばらく黙り、何かを考えこむと、カバンから小さな卵のようなものを取り出した。
私は小首をかしげ、問う。
「それ、なんですか?」
「これは、魔力を閉じ込める特殊な水晶です。強く握り、『解放』と念じるだけで、水晶の中に込められている魔法を使うことのできる、いわゆる『魔導具』というやつですね」
「へえ、魔導具。噂には聞いたことがありますけど、初めて見ました」
メイナード先生は、頷いた。
「そうですね。魔導具は、一般的な市場には流通していませんから、特別に求めて得ようとしない限り、見る機会も、手に取る機会もないのが普通でしょう」
「すごく便利そうな物なのに、どうして流通しないんでしょうか?」
「魔導具は作るのに大変な手間がかかりますし、何より、念じるだけで、誰でも高等な魔法が使えてしまいますので、悪人の手に渡ると大問題が起きることは必至ですからね。法律違反ではありませんが、基本的には、流通どころか、譲渡することもあまり推奨されていないんです」
「あはは、確かに。盗賊なんかの手に渡ったら、大変なことになっちゃいますもんね」
「その通りです。……さて、この水晶には、私の魔力が込められています。ディアルデン家に向かう際は、いつでも使用できるように、肌身離さず、身に着けておいてください」
「わかりました」
私は頷き、魔導具を受け取った。
冷たい水晶の輝きを放ちながら、触れるとほんのり温かい、神秘的な感触である。
メイナード先生は、念を押すように言う。
「そして、もしもディアルデン家で、何か危ない状況に陥ったときは、この魔導具を握って『解放』と念じてください。そうすれば、危機を脱することができるはずです。……もう一度言いますが、くれぐれも、無茶だけはしないように」
私はメイナード先生を安心させるために、力強く頷いた。
それから、魔導具をそっと抱きしめる。……うっすらと輝く水晶の中に、私を心配してくれるメイナード先生の思いやりがこもっているようで、こうしていると、私自身も、不思議と安心することができた。
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