第12話
地面に足がつかないという状況は、考えようによっては、縛られているよりも不自由な状態である。私はもがくようにしながら、エミリーナに言う。
「ちょっと、なんのつもりよ! 魔法を解除して! 下ろしてよ!」
エミリーナは、くすくすと笑った。
「ええ、すぐに下ろしてあげるわ。硬い地面の上にね」
そしてエミリーナは、また何か、呪文を唱える。
すると、私の体は突風に押されたように飛ばされ、屋上の柵を、一気に飛び越えた。
悲鳴を上げる間もなく、エミリーナはさらに追加で呪文を唱える。
私は、ゾッとした。
それは、『魔法の効果を解除する呪文』だったからだ。
……え?
嘘でしょ?
私の体は、屋上から離れた空中に、魔法の力で浮かんでいる。
その魔法の力が解除されたら、私は……
気がついた時には、私の体は猛スピードで降下を始めていた。
ああ、そうか。
さっきエミリーナが言ってた『最後にお伝えしておこうと思った』って、こういう意味だったんだ。
最後――つまり、あの時から彼女は、秘密を知ってしまった私を殺す気だったんだ。しまった、まさかエミリーナがここまでしてくるとは思っていなくて、油断した。鋭く警戒さえしていれば、最初の重力操作魔法を防ぐことだってできたのに。
エミリーナは、落ちゆく私を見て、小さく呟いた。
「ごめんなさいね、アンジェラさん。でも私、どんな手段を使ってでも成り上がって、ルブラン家をもう一度、再興させたいの。……そして、王宮に勤めて、どうしても見てみたい景色があるのよ」
落ちていく。
落ちていく。
落ちていく。
そして私は、地面へと激突した。
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次に目を覚ましたのは、学校の医務室の、ベッドの上だった。
……信じられないことだが、私は生きているらしい。
流石に無傷というわけではないが、軽い頭痛がして、首が少し痛む程度だ。
いったいこれは、どういうことだろう。
あれほどの高さから落ちたのに……
不思議に思いながらも上半身を起こした私に、誰かが声をかけてきた。
「アンジェラさん、まだ動いてはいけませんよ。私の魔法で衝撃は緩めましたが、頭を打っていますから、しばらく安静にしていないと」
落ち着いた、温かみのある男性の声。
これは、メイナード先生の声だ。
どうやらメイナード先生が、魔法で私を助けてくれたようだ。
恐らくは、空気を凝縮し、クッションのような形に形態変化させて、衝撃を吸収してくれたのだろう。
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