第11話

 エミリーナはまだ顔を伏せたままだ。


 しかし、すでに泣きやんでいるみたいであり、彼女の言葉にもう悲壮感はなく、代わりに、強い意志が込められているような気がした。……ん? 最後、ですって? 今、最後って言ったわよね? それ、どういう意味かしら?


 私は、思ったままを、尋ねる。


「最後って、どういう意味?」


 しかし、エミリーナは私の問いには答えない。

 相変わらず、自分のことだけを、つらつらと語り続ける。


「私の能力は、『天才』とまでは言えませんが、それでも、『家柄が高貴であるから』というだけで王立高等貴族院に入れた上級貴族のお坊ちゃまお嬢様よりは、優れていると思っています。……私は誰よりも努力しているし、特定分野の魔法技術だけなら、先生たちにだって負けない自信がある」


 いつの間にか、エミリーナは敬語を使うのをやめていた。

 彼女は少しだけ語気を強め、話を継続する。


「血筋だって、元々は上級貴族の家柄なんだから、悪くないわ。それなのに、今は下級貴族で、特待生に選抜されるほどの『天才』じゃないからって、受験資格さえ与えられないなんて、不公平じゃない。入学してから才能が伸びる例なんて、いくらでもあるのに」


 エミリーナは、立ち上がった。


 私を真っすぐ見据えるその瞳には、隠すつもりもない怒りと憎悪が満ち溢れている。こんな目で人に見られるのは初めてだ。私はたじろぎ、一歩後ずさってしまう。


 エミリーナは、私が下がった一歩分、ゆっくりと前に出て、威圧するように話し続ける。


「こんな気持ち、生まれた時から輝かしい未来が約束されている、上級貴族のあなたには分からないでしょうね」


「…………」


「あなた、さっき言ってたわね。『裏口入学なんて、間違ってるわ』って。はっ! そんなこと、あんたに言われなくても知ってるわよ! でも、その『間違った方法』でも使わないと、私みたいな立場の者は、成り上がることなんてできないのよ。王立高等貴族院卒業者じゃないと、将来、王宮に勤めることはできないんだから!」


 叫び終えると同時に、エミリーナは何かの呪文を唱えた。

 すると突然、私の体が宙に浮く。


 これは、重力を操作する魔法だ。


 かなり高等な魔法で、先生たちですら、使いこなすことが難しいとされる技術だが、どうやらエミリーナは、ある程度自由に力をコントロールすることができるらしい。先ほど言っていた『特定分野の魔法技術だけなら、先生たちにだって負けない自信がある』という文言は、決して過信というわけではなさそうだ。

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