第10話

 状況がよく分かっていないチェスタスを適当にまいて、私とエミリーナは学校の屋上で二人っきりになった。太陽はますます高く上がり、さっき私が述べた言い訳じゃないけど、本当に倒れそうになるほど、日差しが強い。


 不意に、エミリーナがしゃがみ込んだ。


 強い直射日光で、くらっときたのかしら?


 ……いや、そういうわけではないようだ。エミリーナの動作はしっかりとしており、彼女は丁寧に両方の膝をつくと、それから上半身を折り曲げ、なんと、額を地面にこすりつけた。


 これは。

 この姿勢は。


 いわゆる、土下座というやつである。


 エミリーナは地面に顔を伏せたまま。なんとも頼りない、か細い声を漏らす。先程までの砕けた口調とは違い、丁寧すぎるほどの敬語だ。


「お願いします。どうか、裏口入学のことは、秘密にしてもらえないでしょうか。お願いします。お願いします。この通りです」


 裏口入学などという大胆な不正をおこなったエミリーナが、まさかこんな、腰の低い態度を見せるとは思っていなかったので、私は面喰ってしまう。


 何より、彼女の弱々しい声は、非常に同情を誘うものであり、私の心は少しだけ揺らいだ。だが、しかし……


「だ、駄目よ。あなたにも事情があるのかもしれないけど、裏口入学なんて、間違ってるわ。だから、このまま秘密にしておくことはできない」


 私がそう言い切ると、伏せられた姿勢のエミリーナの方から、すすり泣く声が聞こえた。うぅっ……これじゃまるで、私が悪いことしてるみたいじゃない。


 エミリーナはしばらくして、静かに語りだす。


「……私の家――ルブラン家は、今では下級貴族ですけど、私が生まれるずっと前は、上級貴族だったんです。最も優秀な当主であったと言われる曾祖父の代では、この国でも有数の名家の一つだったんですよ。チェスタスのディアルデン家とは、その頃からの付き合いだそうです」


「い、いきなり何の話よ。あなたの身の上話なんか聞いても、私の考えは変わらないわよ」


 しかし、エミリーナは私の言葉を無視して、話し続ける。


「でも、その曾祖父がある日、王様の前で大変な粗相をしてしまい、そのせいで我がルブラン家は、一夜にして権力と名声を失いました。……酷いと思いませんか? 曾祖父はそれまで、王様の期待にすべて応え、忠誠を尽くしてきたというのに、たった一度の失敗で、立ち直れないほどの罰を与えるなんて」


「それは、そうかもしれないけど……だから、いったいどうして、私にそんな話をするのよ」


「わかりませんか?」


「え、ええ」


「最後にお伝えしておこうと思ったんですよ。私が不正な方法を使ってまで、王立高等貴族院に入った理由を」

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