第3話
メイナード先生は、静かに私の話を聞いている。
私はますます憤然として、語り続けた。
「いや、そりゃ、まあ、エミリーナは利発だし、成績も良い方だとは思いますけど、特待生としての入学を許される『天才』ってレベルではないと思うんです……まったく、どうしてあんな子が……あっ」
そこで私は、気がついた。
ちょっと癇に障るからって、同級生の悪口を先生につらつらと言い立てる自分自身の心の醜さに。……私は、急に自分が恥ずかしくなって、赤面し、俯いた。
そして、蚊の鳴くような声で謝罪する。
「……メイナード先生、みっともない愚痴を聞かせて、すみませんでした。いくらエミリーナのことが気に入らないからって、憂さ晴らしみたいに陰で悪口を言うなんて、王立高等貴族院に通う者として、恥ずべき行為でした。以後、気をつけます」
俯いたままの私の右肩に、ポンと優しく手が置かれた。
メイナード先生はそのまま、静かに、諭すように言う。
「偉いですよ、アンジェラさん。よく、自分で気がつき、エミリーナさんの悪口を言いたい気持ちを抑えましたね」
「はい……」
「この王立高等貴族院は、将来、国の中枢で働くことになる、能力的にも、人格的にも優秀な人間を育成する場所。簡単に精神を乱したり、他者の陰口を言うような生徒は、減点の対象となります。今後もその点に留意し、気を付けて学生生活を送ってください。しかし……」
「しかし? なんですか、先生?」
私は、俯いていた顔を上げて問いかけた。
メイナード先生は、とても真剣な顔でこちらを見つめている。
「今さっきアンジェラさんが言った通り、エミリーナさんの転入は、他の下級貴族出身の特待生と比べて、何かおかしいのも事実です。私も疑問に思い、一度、理事長に尋ねてみたのですが、『仕事熱心なのは結構だが、なんでもかんでも知りたがるのは、あまり良くないことだよ』と、はぐらかされてしまって……」
私は小首をかしげながら、言う。
「理事長さんの態度、なんだか変ですね。先生が、受け持った生徒の転入理由を知りたがるなんて、別におかしなことじゃないんだから、はぐらかさずに普通に答えてあげれば、すぐに終わる話ですよね。そうしないってことは……」
「そうです。恐らくは、何か『答えにくい理由』があるのでしょう。特に、半年前に着任したばかりの新参者である私に対しては。……理事長の反応で、ますます不信感を募らせた私は、独自に調査を開始しました。そして、あることが分かったのです」
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