第4話

「あること?」


 なんだか、推理小説のような展開になってきた。

 私は固唾を飲み、メイナード先生の話の続きを待つ。


 しかし、一秒……二秒……三秒……四秒……そして五秒。


 メイナード先生は黙ったままだ。

 なんだか、話しにくそうに見える。


 さらに五秒が経ったところで、メイナード先生は覚悟を決めたように、一度だけ息を吸って、話を続けた。


「どうやらエミリーナさんの転入に関しては、アンジェラさんの婚約者であるチェスタスくんの家が、大きく関わっているようなのです。……それも、あまり良くない意味で」


 私は驚き、問う。


「あまり良くない意味って、もしかして、不正入学ってことですか?」


「ハッキリ言うと、そういうことになります」


 チェスタスの家――由緒正しい名家であるディアルデン家が、そんなことするはずない! ……と、強く言い切ることはできなかった。


 ディアルデン家は数年前に、当主であるチェスタスのお父様が急死して、今はチェスタスの叔父様が当主となっているのだが、この叔父様が、実に評判の良くない人で、色々と悪い噂が絶えないのである。


 チェスタスの婚約者として、私も何度か会ったことがあるけど、何と言いますか、ギラギラとした欲深い目つきで、こっちを舐めまわすように見てくる人だから、正直ちょっと苦手なのよね。


 しかし、その叔父様は、チェスタスとは非常に仲が良い。


 まさかとは思うけど、叔父様だけではなく、チェスタス自身も、エミリーナの不正入学に関わってる……なんてこと、ないわよね? いくらエミリーナが仲の良い幼馴染だからって、ズルをして王立高等貴族院に入学させても、いいことなんてあるはずないもの。


 ……いや、そうでもないのかな? 無理やりにでも入学し、卒業さえしてしまえば、『王立高等貴族院卒業者』として箔がつくし、案外メリットは大きいのかもしれない。う~ん、でも、不正入学がバレてしまった場合のことを考えると、デメリットの方が大きいような……


 そんなことを延々と考え、黙り込んでしまった私に、メイナード先生は声をかけた。


「話し込んでいるうちに、かなり時間が経ってしまいました。あと少しで、日が沈みます。もう教室を出ましょう」


「あっ、はい、わかりました……」


 メイナード先生に促され、教室を出た私は、別れの挨拶をして帰路に就く。


 私は自宅への帰り道でも、ずっとメイナード先生に聞かされた話――エミリーナの不正入学の件について、考えていた。一つの問題について、根を詰めて考え出すと、しばらくはそれ以外のことに集中できなくなる。これは、私の悪癖だった。

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