第5話

 日頃、学生同士の模擬戦や合成魔像を使った演習などに使われることが多い中央第一ホール。


 スターライトを含め一組から三組まで二年次全ての生徒がここに一堂に会し、教員から手渡された資料を片手に次なる指示を待っていた。


 この日行われる結びの儀は将来に与える影響が大きいため学生たちの意思が尊重されるが、そのなかでも意思決定の優先権は常に聖女側にある。


 これは学園独自の方針なわけではなく聖女と聖騎士における一般的な関係…つまりは主従関係が反映された結果であり聖騎士には基本、主である聖女の意思に従うことが求められる。


 同じ学生であるにもかかわらず聖女側の意思が尊重されるのはおかしいといった意見もあるが、魔物の魂を浄化し永遠に消滅させることが出来る聖輝力を扱えるのは聖女のみであるため、扱いに差があるのは仕方がないことであろう。


 それに聖女になれるのは女性のみであるが故に一部の者たちの中で生まれた差別的な意識と比べれば、聖女と聖騎士の主従関係など優しいものだ。


 聖剣と呼ばれる特殊な武装を扱うことが出来る聖騎士は男女関係なく高い社会的地位が確立されているが、後天的に聖輝力を扱えるようになる可能性を秘めた女性と違い聖剣に選ばれなければ生涯魔物に対抗する術を持たない男性のなかには不遇な扱いを受けている者も少なくない。


 これも魔物という脅威が生んだ社会の歪なのだ。






「それではぁ、まずぅ…わたしのクラスの子たちからぁパートナー決めを始めますねぇ」


 スターライト担当の教員である聖女ラライネが間延びした声でそう告げた。


 スターライトと普通クラスでは一年を通して行われる授業全般のレベルに差があるため、星付きの生徒は星付き同士でパートナーになることが殆どだが、禁止されているわけではないので普通クラスの者と星付きがパートナーになることも稀にある。


 ただしこの場合、パートナーと行う授業内容は全てスターライト側のものに統一されるので星付き同士で組んだ者たちよりも学習難易度は上がることになる。


「それではぁ、学籍番号順にぃ宣言を行ってくださいねぇ」


 結びの儀式は聖女である生徒が結びの間と呼ばれる線に囲われた円の中心に上がり、自身がパートナーになりたい聖騎士の名前を一人宣言するところから始まる。


 聖女は自分の番につき一人、聖騎士の名を宣言することができ名前を呼ばれた聖騎士はその時点で宣言を行った聖女のパートナーに決定されるのだが。


 その宣言に対し、事前に聖騎士から指名札を受け取っていた聖女に限り異議を唱えることが出来る。


 この場合指名札を持つ聖女の異議が優先され、宣言を行った聖女は他の聖騎士を選びなおさなくてはならない。


 聖騎士は一人につき一枚しか指名札を持たないが、聖女は何枚でも指名札を受け取ることが出来る。


 つまり、人気な聖女が何度も異議を唱え聖騎士を独占するとそれだけ騎士なしの聖女が増えるというわけなのだ。


「私は、クラウス・ローウェンさんに対し宣言を行います」


 成績最優秀者として知られる聖女、レイ・ノーチェスが結びの間に立ちそう宣言するとホール内が一気に騒めきだった。


 学籍番号は前期の成績を基に決定される。


 前期、聖女では学年二位の成績だったロゼッタはレイの宣言を聞き「ううっ、最悪よっ」と歯噛みした。


 この宣言に対し異議を唱えられのはクラウスの指名札を持つ聖女だけ。


 しかし、黄金の獅子であるランディなど数少ない友人にしか心を許さない黒曜の貴公子が誰かに指名札など渡すだろうか?


 可能性があるとすればランディを通じて交流がある紅瞳の薔薇姫だが、現に彼女はとてつもなく悔しそうな表情で結びの間にいるレイのことを睨みつけている。


 この様子から察するに、恐らくロゼッタは異議を唱える権利を持っていないのだろう。


「異議がなければぁ、このまま結びの儀を完了しますよぉ~?? 前期成績が共に聖女一位、聖騎士一位の二人がパートナーになるなんてぇ…お似合い過ぎて先生つまらないですぅ~」


「ちょっと、ラライネ先生」


 わざとらしく口を尖らせた聖女ラライネを、一組の担当教員である聖女アロマが諫める。


「むぅ~。 それじゃぁ、異議もないみたいなのでぇ…ここに結びの儀の完了を――」


「待ってっ!! 異議は……異議は、あります」


「……!! 」


「貴女はぁ……たしかぁ。 降格になって二組に編入されたぁ、ノエル・アゼットさん。 ですよねぇ? 」


「…………はい」


「アゼットさん、貴女。 私の宣言に異議を唱えるには、クラウスさんの指名札がいるのよ? 今この場で、貴女に口を挟む権利があると思って――」


「権利ならある」


「えっ……」


「権利ならある、俺が指名札を渡した」


「…………」


「そんな…嘘。 嘘よ…」


「あららぁ…? どうやら、本当にアゼットさんが指名札を持っているようですねぇ…? 」


「はい…コレです」


「どれどれぇ~?? ふむぅ…本物、ですねぇ。 ではぁ、異議が唱えられたのでノーチェスさんは改めて宣言を行ってくださいねぇ? そしてぇ……」


「ここに、まさかまさかの二人。 クラウス・ローウェンさんとノエル・アゼットさんのパートナー成立を宣言しますぅ! 」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る