第3話
ほえ~。
ここが普通クラスの学術塔ですか~。
俺たちの塔とは割と雰囲気違うんだな~。
んお?
ここが二組か。
んじゃ、ほいほーい、失礼しますよっと。
「失礼する」
さて。
扉を開くと同時、一秒にも満たない僅かな時間で教室の隅にいるノエルさんを見つけることが出来たわけだが…。
流石にこれだけ気付くのが早いと普段からめちゃめちゃノエルさんのことを意識してると思われそうなので自然な感じで辺りを見渡してみる。
「アゼットはいるか」
これはあれ、あれよ。
名前呼びするのを日和ったんじゃなくて家名の方が周囲に伝わるかな~って冷静に判断したわけであって。
決して、名前で呼ぶのが恥ずかしいとかそういうわけじゃないんだわ、ないんだわ!
それに、俺は一日に何百何千とノエルさんの名前を呼んでいるからな~(心の中で)たまにはこういう感じも新鮮味があっていいんじゃないか~??
とりあえず、今日の俺にはノエルさんに話しかけるキッカケ…大義名分がある。
日頃からタイミングを伺っていたもののなかなか声を掛けられず、ここまで彼女との距離は一向に縮まらなかったが、しかし!
今日を機に、俺はノエルさんと親しくなる!
そんで結婚する!!
……いやいや、落ち着け落ち着け。
流石に飛躍し過ぎだ、浮かれてはいけない。
ここで急にガツガツいったらドン引かれること間違いなしだ。
まずは普段通りを心がけて、ふつうに声をかけるぞ…いいな~? 焦るなよ~?
「本当にここに居たとはな、アゼット」
「貴方は…。 黒曜の…こんな所まで何の用? 降格になった私を冷やかしにでもきたの? 」
え? ちょ、今の聞きましたか奥さん?
黒曜の…って、今そう言ってたよね!? ね!?
よかったぁぁぁ、俺、ノエルさんに認知されてたぁぁぁ。
いやー流石に、中等部も同じクラスだったのに「誰? 」とか言われてたらもう立ち直れなかったわ。
興奮しすぎて後半よく聞き取れなかったけどファーストコンタクトは成功したな、うん。
んじゃまあ、前置きが長くてもあれだし本題を切り出すとしますか。
「…今日が何の日か分かるか」
「貴方、私を馬鹿にしているわけ? 結びの儀…卒業するまでの仮のものとはいえ、聖女と聖騎士がパートナーを決める大切な日よ、忘れるわけないじゃない」
「そうか…」
「本当に何なの? 用がないなら帰ってちょうだい。 貴方がいるとこっちまで変に注目されて迷惑なの」
「アゼットは…もう、決めた相手はいるのか」
「…え? 」
「いや、そんなことはどうでもいいか…。 これを、渡しておこう」
「封筒…? 何よ、これ? 」
「俺の指名札だ、受けるか受けないかはお前に任せる」
「指名札って、貴方本気なの!? スターライトでもトップ層の貴方と…そんな貴方と…今の私じゃ釣り合わないわよ…」
「……選択権は聖女であるお前にある」
「でも…」
「難しく考えなくていい…。 相手に困ったら、その札を使え」
「……」
「それでは。 失礼する」
ふぃ~なんとか、指名札を渡せたぜ…。
正直緊張しすぎて自分でも何話してるのか全然分からなかったけど、とりあえず目的は達成できたわけだ。
高等部の二年次からは、卒業後を意識した訓練や実地演習が本格的に始まって聖女と聖騎士は基本二人一組で行動することになる。
これが所謂パートナーってやつで、そのパートナーを決めるのが今日…結びの儀ってわけだ。
だけどここで毎年問題になるのは、いつの年も人気の聖女や聖騎士がいるってことだ。
聖騎士が聖女を護るという関係上、どんなに人気でも聖騎士一人に聖女が二人以上つく組み合わせは認められていないがその逆は認められている。
つまり、聖女本人さえ許可すれば一人に何人の聖騎士がついてもいい仕組みになっているのだ。
そうすると当然、パートナーが見つからない聖女が出てしまい…この場合は外部から家族が聖騎士を見繕い連れてくるのだが当然その聖騎士は学生ではないのでこの組み合わせになると演習や模擬戦で如何に良い成績を残してもその評価がマイナスされ…卒業後の進路に大きく響いてくるのだ。
さらに最悪なのは、定められた期間内に外部の聖騎士を連れてこれなかった場合…退学になってしまうことだ。
万が一にでもノエルさんが退学になってしまったら俺はもうどうしていいのか分からない…。
絶望、世界の終わりなのだ。
スターライトからの異例の降格、実際のところ何が理由で降格が決まったのかは分からないが…この時期に降格になるのはかなりマズい。
聖騎士にとってもこのパートナー選びは将来が掛かってるわけだし、今回の降格の件は学園がノエルさんになにか問題があると判断したのだと捉え彼女を避ける生徒が大半になるだろう。
「ふん…くだらん…」
だが、俺にとっては異例の降格だろうがなんだろうが全くもって問題ない。
そもそもノエルさんとは将来を共にするわけだし、この先彼女に何が起ころうが俺が彼女のパートナーになる未来は変わらないのだ。
彼女がオファーを受けてくれればの話だけどね!!
(……断られたらどうしよう、マジで)
そんな、一抹の不安を抱えつつ。
俺はランディが待つスターライトの教室へと戻るのだった。
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