第2話
一学年に一つだけ設けられる選抜クラスのスターライトを除く、残りの三クラスに優劣はなく。
それ故にスターライトとその他三クラスの間には大きな差…それこそ溝とも呼べるような区切りがあった。
というのも、スターライトに在籍する星付きの生徒たちは学園内で利用できるあらゆる施設やサービスが優遇されており。
在学生が寝泊りする寮も星付きの部屋は一般生徒の二倍以上の広さになっている。
そういった待遇の差から、一組、二組、三組に在籍する生徒の中にはスターライトの星付きに対しあまりよくない感情を抱いている者も少なくない。
とはいえ毎年、三クラスの成績優秀者数名とスターライトの下位数名を入れ替える再選考が行われるため自分の頑張りしだいでは星付きになれるかもしれないことや。
星付きは一般生徒より厳しい訓練を受け、危険度の高い実地演習を行うことなどから一般生徒の不満が爆発するようなことはない。
特に黒曜の貴公子や黄金の獅子…紅瞳の薔薇姫などと大そうな呼び名をつけられているような星付きは、学生の枠に収まらない類い稀なる才能を持ち、聖女としての聖輝力や聖騎士としての武力においてはとうてい敵う相手ではない。
つまり多少不満があっても下手に手を出して彼・彼女らに目をつけられてしまってはたまったものじゃないと表面上は大人しくしているのである。
濡れ鴉のような美しい黒髪に、古来から力ある者の証とされている黄金の瞳。
黒曜の貴公子ことクラウスは、自分たち星付きが他の学生たちからそのような目で見られているとは微塵も思っておらず。
スターライトとは別棟に存在する通常クラスの学術塔を訪れてからというもの、何故か道を開けるように生徒たちが移動していることに気付き「何かあったのか? 」と星付きの中でも有名人である自身が突然現れた事が原因にも関わらず他人事のように疑問を抱いていた。
「失礼」
早朝とはいえ今日が連休明け…結びの儀を行う日取りという事もありそれなりの数の生徒が揃い、友人たちとの会話に花を咲かせていた二組の教室。
その扉を静かに開き、明らかに異質な空気を纏った黒衣の男が入室してきた瞬間、先ほどまでの賑わいから一変しシン…と辺りは静まり返った。
黒衣の男…クラウスの存在にいち早く気付いた入り口付近の女子が小声ながらも色めきだつと。
黒曜の貴公子が現れたのだと、すぐにざわめきが広がった
「アゼットはいるか」
周囲を見渡しながらクラウスがそう口にすると「そんな生徒このクラスに居たか? 」と二組の生徒たちは友人と顔を見合わせるが。
ああ、そういえばと。
クラスで一人、ぽつんと隅の席で大人しくしている女子の名を思い出した。
ノエル・アゼット。
元スターライトの落ちこぼれ。
噂では、星付きの頃その可憐な容姿を鼻にかけお高くとまっていたみたいだが、今じゃ前代未聞の学期途中の除籍、普通クラスへの編入ときた。
ただでさえスターライトからの降格組は普通クラスに馴染むのが難しいというのに、自分からは誰にも関わらうとせず教室の端ですまし顔。
既にクラス内で浮き始めていたノエル・アゼット、スターライトの面汚しでもある彼女に黒曜の貴公子は一体何の用なんだろうと。
教室中の注目がクラウス、そしてノエル・アゼットに集まるなか。
つかつかと、ノエルが座る教室の隅まで足を運んだクラウスは数分にも満たない僅かな間だけ何やら彼女と会話し、その話を終えると外套の内ポケットから一枚の封筒を取り出し彼女に渡した。
「それでは。 失礼する」
クラウスが教室を去った後暫くして、教室には再び先ほどまでの賑わいが戻ったがその話しの内容は全て黒曜の貴公子と落ちこぼれノエルについてのものだった。
一体、星付きの中でも一際優秀な彼と異例の降格となった彼女の間で何が起きたのか。
朝の話題はこの二人の関係で持ちきりになりそうだ。
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