偽聖女だかなんだか知らないがずっと好きだったこの気持ちは変わらない

猫鍋まるい

序章 結びの儀

第1話

 この世界を脅かす魔物、その魂を浄化し永遠に消滅させることが出来る清き乙女の総称「聖女」。


 そして、そんな聖女の剣となり時に盾となる者たちを人々は聖騎士と呼んだ。


 ここは聖なる学徒、やがて魔に抗い人々を守護する者たちが集う場所。


 聖都ラティシアを代表する三校が一つ。


 第一校、アインホルン。






 ◇◆◇






 早朝の学び舎。


 学園の廊下を歩く男、クラウス・ローウェンはラティシア国内では珍しい黒い頭髪と同じ漆黒の外套に身を包み自身が在籍する二学年の選抜クラス、スターライトの教室へと足を運んだ。


 スターライトに所属する学生は星付きと呼ばれ、同世代の中でもひときわ優秀で将来を有望視されている。


「おはよう、クラウス。 今朝は早いね」


「ああ」


 学友からの挨拶に対し、たったの二文字で済ませてしまったクラウスの態度に中等部からの付き合いである彼…ランディは「ふふっ、相変わらず不愛想だな。 君は」と慣れた様子で笑ってみせた。


「そういえば、聞いたかい? 」


 ずいっと座席を近づけ声を潜めたランディに対し、クラウスは何の話だと首を傾げる。


「ノエルさんの話だよ」


「……」


「その様子だと、まだ知らないみたいだね。 なんでも彼女…スターライトから除籍されて二組に編入されたそうだよ」


「……なに? 」


「二年次に上がって、連休が明けたこの時期におかしな話だが……。 彼女”偽聖女”なのではないかと噂になっていてね…」


「……」


「女子の会話を盗み聞きした程度だから、僕も詳しい話は分からないが…。 本当だとしたらこれから大変だろうね、彼女」


「……! 」


「クラウス? 」


「少し…席を外す。 荷物を頼んだ」


「えっ…? あっ、うん。 それはいいけど…」


「助かる」






 ◇◆◇






 やあやあ、おはよう! おはようっ!


 今日もいい天気だな諸君!


「おはようクラウス」


 おっ、ランディ!


 おはよーさん! 相変わらずびっくりするくらいのイケメンだな、羨ましいぜこのこのっ。


 ん…? んんっ? その頭…。


 ランディちゃん寝癖ついてね? ゆるふわな金髪で誤魔化されてるけど、明らかにそのピョコンとしてるの寝癖じゃね??


「今朝は早いね」


「ああ」


 まあな。


 なんっつたって今日は大事な大事なパートナーを決める、結びの儀をやるわけだし。


 昨日の夜から寝付けなくて、もうギンギンのギラギラよ。


「そう言えば聞いたかい? 」


 うおおう。


 急に距離を詰められると困るんだが…イケメン超接近、相手が俺じゃなかったらヤバかったね。


「ノエルさんの話だよ」


 ノエっっっっっ!?


 ののののノエルさん!?


 あっ、いや。


 べつにぃ~? 別に、興味があるとかそういうわけじゃないけど、そのノエルさん? だっけ、彼女がどうかしたのか~~??


「その様子だと、まだ知らないみたいだね。 なんでも彼女…スターライトから除籍されて二組に編入されたそうだよ」


 へ?


 なんじゃぁぁぁぁぁそらぁ!?


 うそじゃん。


 俺の癒し、日々の活力、心のオアシスのノエルさんが除籍とかマジありえんのだが…!!


「……なに? 」


「二年次に上がって、連休が明けたこの時期におかしな話だが……。 彼女”偽聖女”なのではないかと噂になっていてね…」


 偽聖女ぉ???


 なんそれ?


 偽聖女だかなんだか知らないがノエルさんはマジ天使だから、もはや聖女を通り越して女神だって話なら同意するぞ。


「……」


「女子の会話を盗み聞きした程度だから、僕も詳しい話は分からないが…。 本当だとしたらこれから大変だろうね、彼女」


 大変…?


 いやいや、まてまて。


 そういう話ならこの漢クラウス、黙ちゃいられませんな。


 彼女のピンチに駆けつけるのは彼氏として当然……じゃなかった、将来を共にする予定の男として当然のこと。


 待っていてくださいノエルさん、不肖このクラウスめが助太刀に参りますぞ~!!


「少し…席を外す。 荷物を頼んだ」






 ◇◆◇






 クラウス・ローウェン。


 彼はローウェン家の養子として複雑な立場にありながら、圧倒的な武の才能とその美貌から名家の令嬢・子息が数多く在籍するこの学園、アインホルンにおいても一目置かれる存在だ。


 確かな実力と、寡黙で時に冷酷とも取れる態度から憧憬と畏怖の念を込め黒曜の貴公子などと呼ばれるこの男だが…その実態は。


 とてつもなく騒がしく、どことなく残念な中身をしていた。


 これは無口かつ無表情であることが幸いし奇跡的に外面が保たれている男が、一人の女に恋をし愛を貫き続けた物語である。

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