第66話 女神様 料理を振舞う

 オタロード調査の数日後、私はトヨちゃん、アンナ、ソフィアと共に子ども食堂に訪れた。今回の目的は開発したメニューを子供たちに振舞うことだ。


 何度も試作を重ねトヨちゃんには太鼓判を押されている。これを子供たちに食べてもらい忌憚ない意見を聞くのだ。謂わばメニューの最終試験、乾坤一擲の大勝負だ。


「女神様自信を持って下さい。絶対子供たちも喜びますから」

「そうですよ。味、斬新さ、栄養バランス、旬の素材全てをクリアした素晴らしい献立です。ベスちゃんの集大成を楽しみにしています」

 アンナとトヨちゃんの励ましが心強い。


「任せて。心技体ともに充実してる。ここに全てをぶつけるわ」

 高らかに宣言して調理に入る。今日振舞うメニューは全てオリジナルメニューだ。それもギリシャと日本を繋ぐ私ならではのラインナップになっている。是か非でも店の看板メニューに育てたい。



 午後四時を回り子供たちがちらほら顔を見せ始める。調理のお手伝いはトヨちゃんとスタッフにお願いし、アンナには子供たちと遊んでもらっている。ソフィアはマイペースで撮影に励んでいた。本当は今すぐ飛び出して行って皆にハグ攻撃をしたいが、グッと堪えて調理に専念した。


 いよいよ料理も佳境に入り、熱々で提供したい料理に取り掛かる。

 八月に入り連日猛暑が続いていた。そんな中、人数分の揚げ物をするのはかなり大変だ。調理場の人はこんな暑さに耐えて料理を作ってくれていたのかと実感する。今後はもっと感謝して頂かねばなるまい。


「みんな~。お料理が出来たわよ~」

 わあっと歓声が上がり表情が一段と明るくなる。食べ始めてもこの笑顔が続くよう切に願った。


 今日のメニューはベスちゃん風チキン南蛮、和風ムサカ、夏野菜の冷製ヨーグルトスープの三品に白米だ。デザートもあるが、スイカなので料理ではない。この三品で勝負を賭ける。


「は~い、みんな。今日の料理はベスちゃんが作ってくれたスペシャルメニューよ。感想をベスちゃんに聞かせてあげてね。では手を合わせて下さい」

 皆が目を輝かせながら手を合わせる。緊張の一瞬だ。

「いただきま~す」

 子供たちの大合唱と共に世紀の一戦が幕を開けた。


 恐らく初めて見るであろう料理に興味津々の子供たちは一斉に食べ始めた。今回は食べやすいようにフォークも用意している。だが大半の子供はチキン南蛮に箸を伸ばしていた。


「美味し~い」

 近くの男の子が目を輝かせて私へ振り返る。自信作であるベスちゃん風チキン南蛮は合格のようだ。

「ベスちゃん、この鶏肉のソース凄く美味しいよ。それと刻んであるお野菜がシャキシャキのコリコリで面白いね」

 隣の女の子はソースを褒めてくれた。その言葉に思わず頬が緩む。


 ベスちゃん風チキン南蛮は鶏もも肉に衣をつけて揚げ、甘酢に潜らせるまでは同じである。工夫したのはチキン南蛮に付き物のタルタルソース。こちらをギリシャ料理に欠かせないザジキに変えたのだ。


 ザジキは簡単に言えばヨーグルトソースである。だがギリシャで一般的なレシピではなく、沢庵漬と水に晒した玉ねぎのみじん切りを入れるアレンジを施した。

 ヨーグルトの酸味で夏場でも美味しく揚げ物を頂けるだろう。加えて沢庵漬を入れることで白米との相性も向上しているはずだ。


 マヨネーズたっぷりのタルタルソースは、間違いなく美味だが高カロリーなのが難点だ。高コレステロールなのも頂けない。その点ザジキは低カロリー高たんぱくである。健康面では間違いなくこちらに軍配が上がるだろう。

 

 またザジキは腹持ちが良い。その秘密はヨーグルトにある。ザジキに用いるのは普通のヨーグルトではなくギリシャヨーグルトなのだ。


 ギリシャヨーグルトは通常のヨーグルトより水分が少なく、凝縮された濃厚な味が特徴だ。これは同じグラムならたんぱく質の量が断然多いことを意味する。その結果腹持ちが良くなるのだ。

 ターゲットになる若者が求めるボリュームや満腹感に対しても、有効なアイテムになるだろう。


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