第67話 女神様 合格する

 気を良くした私は周囲を見渡す。中学生の男の子がスープを飲んでいる。評価が気になりこっそりと近寄った。


「このスープいいね。冷たいスープなんて初めて飲んだけど、夏にピッタリだよ」

「私はヨーグルトスープって聞いた時、料理に合うのかなって思ったけど、コンソメが効いてるし酸味も気にならない。寧ろ口の中がすっきりして食欲が沸くわ」

 中学生の男の子と隣に座るさくらさんがスープを気に入ってくれた。論評も具体的で実に参考になる。


 夏野菜の冷製ヨーグルトスープはギリシャヨーグルトとコンソメスープを合わせ、きゅうりとトマトのみじん切りを入れたものだ。オリーブオイルを少量垂らし、コクも与えている。


 因みにギリシャではオリーブオイルを沢山使う。先程のザジキにも入っている。

 オリーブオイルに含まれるオレイン酸には抗酸化作用や悪玉コレステロールを押さえる作用があり生活習慣病の予防につながると言われている。勿論使っているのはエキストラバージンオイルだ。


 日本でも生活習慣病の低年齢化が問題視されている。全体の油の摂取量に留意しつつ、上手にオリーブオイルを活用していけば、健康にも寄与するはずだ。特にオタクは高カロリーで脂っこい料理を好む傾向が強いと聞く。彼らの健康を守る手助けが出来るだろう。




 貴重な意見に満足しつつこっそり離れる。そして振り返ると以前私の絵を描いてくれた女の子二人と目が合った。相変わらず仲良して、いつも並んで食事を摂っている。今度はそちらへ近づいた。


 二人は和風ムサカを食べていた。

 一口大に切り分けたが、小さい子組には崩れやすいムサカを箸で食べるのは難しいかと思っていた。しかし右手に箸、左手にフォークを持ち上手に口に運んでいる。


「私これ好きや。甘いお肉とジャガイモが美味しい。一番上のお味噌も美味しいわ」

「私も~。お茄子は苦手やけど、お味噌とチーズがあるからお茄子が美味しいの」


 やった。作戦成功だ。

 実はこの和風ムサカが一番手を加えている。原形を留めていないと言っても過言ではなかった。


 ムサカは挽肉入りトマトソースを茄子、ジャガイモ、ズッキーニなどで交互に挟んでオーブンで焼いたものだ。そしてギリシャでは一番上にベシャメルソースとチーズを載せて焼くのが一般的である。


 対する和風ムサカは鶏挽肉を割り下で味付けした甘辛味の鳥そぼろを用いている。これを下からジャガイモ、ズッキーニ、茄子で挟む。極めつけは、一番上に酒やみりんなどで調味した西京味噌を塗り、粉チーズを掛けた味付けだ。


 最早ムサカの名はコンセプトだけで完全な和食と化している。甘辛いそぼろとジャガイモで疑似肉じゃがを作り、チーズと味噌の絶妙コンビが淡泊な茄子を濃厚な味に変身させる。その相乗効果で白米が進むムサカを狙っていた。




「はーい。今日のデザートはスイカだよ。食べ終わった子から取りに来てね~」

 さくらさんの明るい声に子供たちが一段といい笑顔を見せる。

 やっぱりデザートには敵わないなと苦笑した。


「ベスちゃんありがとう。全部めっちゃ美味しかったで」

 腕白な男の子が満面の笑みで答えてくれた。お世辞ではないのが表情と空になった器をから伝わる。

「白いご飯と一緒に食べてみてどうだったかな?」

「あんな。鳥の揚げたんに白いソースが掛かった奴は、ご飯にめっちゃ合うねん。ほんでな挽肉を野菜で挟んだ奴もな、お味噌とチーズが美味しいから、いっぱいご飯が食べれんねん。だから全部100点、いや一万点や」


 最高の評価に涙が溢れそうになる。私は思わず男の子をハグしていた。やんちゃ盛りの彼は、照れくさそうにしながらも素敵な笑顔を返してくれた。


 最終試験合格だ。ここから更にレパートリーを広げて最高の食堂を作ろう。

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