第65話 女神様 雲に賭ける

「これじゃあ打つ手なしね」

「いえ、皆無ではありませんよ」

 意外にもソフィアが自信あり気に口を開いた。


「将来的に入って来るお金を担保に、ゼウス様やヘルメース様辺りに借りる方法があります。返済能力内の借金は財産と言いますからね」

「ごめん、身内に借金って好きじゃないの。別の手段はある?」

「他にもヘスティアーTシャツのようなグッズ展開をして儲ける方法がありますよ。これを餌にコラボ相手を探して出資してもらうという手も使えますね」

 ソフィアは次々と案を出す。学はなくとも儲け話に詳しいのが彼女らしい。


「それって素人が手を出して大丈夫なの?」

「いえ、かなりハイリスクです。なので食堂が出来た後に、店内の一角で少しずつ始めようと思っていました」

「じゃあ、ダメじゃない」

「ならば私の本命を披露しましょう」

 これまでの話は何だったのだ!


「クラウドファンディングをやりましょう」

「もう、二人は直ぐに謎の呪文を唱える。キャパオーバーだから勘弁して」

「まあまあ、そこは慣れて頂かないと」

 ソフィアはニヤニヤと見下すように笑っている。

「ソフィアさん、クラウドファンディングで何千万円もなんて無理ですよ。第一見返りが難しいです。女神様のお店は営利追求型ではないので、無料チケットや割引をやると経営の足枷になってしまいます」

 アンナが力説しているが内容がさっぱり入って来ない。雲の財政……意味不明だ。


「それぐらい分かってるわ。仮に五千万円だと五千人が一万円出してくれればクリアよね。ほぼ原価を掛けず、一万円出してでも欲しい特典を用意するのよ」

「そんなの絶対無理よ。だって一万円って結構な額よ。それなのに安っぽいお返しだけで満足する人なんている訳ないじゃない」

 策士らしからぬアイデアに私は声を荒げてしまった。

「いえ、それがいるんですよ」

 ソフィアの目が怪しく光る。だからそれを止めなさいって。


何故なにゆえネット戦略にここまで力を入れたか。そして何故なにゆえ女神様の動画チャンネルがバズり、インスタのフォロワーが十万人を超えたか。そこに答えがあります」

「だから勿体ぶらないで説明なさいって」

「面白くないですね。会話のキャッチボールを楽しみましょうよ。まあ良いです。答えはオタクです。そしてクラファン突破の鍵もオタクなのです」

 オタクだと? 私は子供たちの為に頑張っているのであって、オタクの為に頑張っているのではないのだが。


「何でオタクが鍵になるのよ」

「オタクという生き物は自分のお気に入り、所謂『推し』ですね、推しの為なら結構な額を平気で費やすのです。私自身がそうなのでよく分かります」

 そんな無駄遣いしないで家族に仕送りするべきだろう。呆れて物も言えない。

「現在の登録者は二十万人越え。普通に考えればここから一万円を出してくれる人は一パーセントにも満たないでしょう。ですが、その大半がオタクの女神様なら可能性はあります」

 そんな訳はない。流石に大袈裟だ。


「これを更に強固なものとするために、ギリシャの神々に協力頂くのです。具体的な特典はここでしか手に入らないブロマイドです。千円なら一枚、五千円なら六枚、一万円は十二枚&プラチナ写真一枚にします。特典は自らダウンロードする方式にすれば、送料も印画紙代もゼロです。サーバーレンタル代だけで済みますよ」

「はいはい、妄想もそこまで行けば立派ね」

「女神様、悪くないかもしれません」

 えっ? アンナまで?


「登録者十万人の時点で、どんな人が登録してくれているのか興味があったので、サンプリング調査をしてみたんです。なんと七割近くがオタクと呼ばれる人でした。可能性はあるかもしれません」

「アンナ、貴女も使えるようになったじゃないの」

 何故そこまで上から目線で言えるのだ。


「目標金額は多いに越した事はありませんが、半年ほど経てばネットの収入が入るので、五千万円集まれば運転資金込みでも万全でしょう。ホットな話題になっている今が好機ですよ」

「分かったわよ。お金のことは何にも分からないし、二人が可能性があるというならそれに賭けてみるわ。ソフィア、準備を進めて頂戴」


 ソフィアは拠点探しがあるので暫く下界のホテルに泊まる予定だ。オタクの店に入り浸らなければ良いのだが。

 この日はもう少しオタロード周辺を調査して終了した。

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