第63話 女神様 バズる

 ネットで一攫千金を狙うソフィアに対し、私とアンナは地道に進む選択をした。

 ソフィアの意向で動画を週一回、写真を一日回以上投稿するようになっている。その撮影の合間に、トヨちゃんの特別料理講習を受けてメニュー開発を始めた。


 私の理想とする料理は、あの日トヨちゃんが子供たちに振るまった和風カレーだ。栄養バランスは勿論、苦手な食材を克服させる工夫があり、しっかり和食の息吹が感じられる。しかもボリューム満点だ。

 最近分かったのだが、あの料理は案外低コストで作れるらしい。しかも旬ごとに食材を変えらえるメリットもある。新メニューを好む日本人向きだ。


 ターゲット層は、孤食や個食に走りがちな若者だから、パンチのある味とボリュームを求める傾向がある。これらをクリアしつつ、栄養バランスが良く和食の良さを出すとなると結構ハードルが高い。もっと努力が必要だ。


 アンナは旬の食材を厳選し、効率よく仕入れる研究に打ち込んでいた。季節毎に主力となる食材をリスト化し、メニュー開発をサポートしてくれている。

 優しい気遣いが出来る上、しっかりとした知識も持ち合わせている優秀なアンナにサポートしてもらえる私は本当に幸せだ。


 そんな日々を過ごしていたある日、メニュー開発をしている私の所にアンナが駆けこんで来た。

「女神様、ネットが大変な事態になっています」

「え? ソフィアが何かやらかしちゃったの?」

 恐れていたことが現実となった。他の神々やギリシャ政府に迷惑をかけてしまう。

「違います。ネットの投稿がバズって大変な反響です。は登録者が十万人を越えました。インスタも七万人です。これはとんでもない数ですよ」

 バズ? お願いだからこれ以上謎の呪文を唱えないで!


「それって良いの? 悪いの?」

「凄く良いことですよ。簡単に言えば女神様のお言葉を十万の民が関心を持って聞いてくれているんですよ」

「わ、わ、私の言葉を十万の民が?」

 余りの驚きに軽い眩暈を起こす。今まで私に関心を持つ民など皆無に等しかっただろう。それが十万人……。

「ネットって恐ろしいわね」

 ギリシャですら忘れ去られた情弱ぼっちヒッキーのダ女神に光が当たる日が来ようとは。これも全て日本のお陰だ。


 そこへソフィアが意気揚々と現れる。これ以上ないほどのドヤ顔だ。

「は~はっはっ。どうです私の戦略は。しかも早速大仕事が舞い込んできましたよ」

「大仕事って?」

「大手メディアのインタビューです。これはビッグビジネスの予感しかしませんね」

「大手メディアですか? 女神がインタビューなんて受けていいのですか?」

「こうなりゃ事後報告で逃げ切ったって構やしませんよ」

 相変わらずの腹黒さ。お金が絡むとダメのようだ。


「普通にインタビューを受けたって面白くないし、波及効果が見込めません。女神様、ここは一つ策を施しましょう」

「策って怪しいのは却下だからね」

「いえいえ、正攻法です。例の子ども食堂に連絡して合同取材にしましょう。取材側のテーマは日本に訪れた理由と日本での過ごし方です。先方の希望通りの上に美談付きとくれば他のメディアも挙って取り上げるでしょう」

 合同取材とは面白い発想だ。子ども食堂に光が当たるのは喜ばしい。ただ……。


「美談とかそんなんじゃないわよ。私はやれることをやれる範囲でやっているだけ。しかも大した力はないし」

「メディアからすれば、注目度抜群のリアル女神様が、日本で子供を守るために奮闘している事実が重要なのです。さあ、これから忙しくなりますよ~」

 それだけ言うとソフィアは部屋へと戻っていった。


「女神様、何だか大事おおごとになってきましたね」

「うーん。よく分からないけど、これって私達の計画にプラスなの?」

「きちんと対応して正しく報道して頂ければ間違いなくプラスです」

「じゃあ頑張る。取材までに各所への報告だけは済ませましょう」

 今の私はひたすら前だけを見ている。女神の威厳とかそんなものはどうでも良い。プラスになるなら客寄せパンダだろうが何だってやるつもりだ。

 

――これが私の武器だもの。


 私は神生じんせい初の合戦に挑むつもりで気合を入れた。

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