第62話 女神様 翻弄される
大阪の割烹料理店のでも多くを学び、二カ月に渡る料理修行を終えた。アンナもお店の運営だけでなく、周辺の多岐に亘る業務を学んでいる。
ここからは出店に向けて具体的な計画を立てなくてはならない。エビスさんの知識と人脈に頼る部分が大きくなるだろう。流石に頼り過ぎではあるが、成功させることが恩返しだと思って甘えよう。
そんな中、またもや想定外の出来事が起きる。
「ヘスティアーお姉さま、ご無沙汰しています。順調に進んでいますか?」
「アテナちゃん、お久しぶり。急にどうしちゃったの?」
「はい、彼女をお届けに」
するとアテナの後ろから、ソフィアがひょっこりと顔を出す。
「何でも彼女は事業計画の要らしいじゃないですか。戦車をぶっ飛ばしてお連れしましたよ」
「ちょっとソフィア。アテナちゃんを巻き込んでどういうつもりなのよ」
すると彼女は悪びれる素振りなく言い放った。
「別に事実を言っただけじゃないですか。丁度料理修行も終わる頃だし、次のステップに向けて私が絶対必要ですよね。それに開店して店が軌道に乗った後、日本店の運営管理は誰がやるんですか?」
二カ月の奉仕活動は全く効果がなかったようだ。一応禍々しいオーラは消えたが性根は腐ったままだった。
「日本で優秀なスタッフを探すから貴女は必要ないわよ」
「またツンデレですか? 女神様をよく知り、この計画に最初から携わった私がいるじゃないですか。既に退路は断っておりますのでよろしくお願いします」
何を勝手に退路を断っているのだ。正直迷惑な話である。
「数多いる神やニュムペーの中から何で忙しいアテナちゃんに頼んだのよ。可愛いアテナちゃんの手を煩わせて、返答次第では天罰を下すわよ」
「ふっふっふっ。これも次のステップの為です。日本でも絶大な人気を誇る神々の代表格にして絶世の美女アテナ様以上の適任者はおりません」
「ちょっと、ソフィア。まさかアテナちゃんに何かやらせるつもりじゃないわよね。妙な真似したら絶対に許さないから」
やはりこいつには一瞬たりとも気が抜けない。
「ご安心ください。可愛らしい姿や凛々しい姿を写真や動画に収めるだけです。勿論女神様とのツーショットもたっぷり撮りますよ」
「本当にそれだけ?」
「勿論です。他ならぬアテナ様ですよ。不遜な行いなど出来よう筈がありません」
私に対しても同じだと何故気付かないのかが解せない。
「ここから開店までネット戦略を展開します。その第一弾として女神様にインスタを開設して頂き、お二人の写真を公開します。これは世界中に衝撃が走りますよ」
インスタ。また謎の呪文か。
「確かにインスタで写真を公開すれば世界に衝撃が走るでしょうが、ちゃんと許可は取ったのですか? 場合によってはギリシャ政府が動きますよ」
「新米は堅苦しいわね。そこは、ほら。ヘスティアー様に頑張って頂いて」
「掟破りの逆投げっぱなしジャーマン決めるつもりなの?」
「ふっ、先に技を決めた者勝ちです」
彼女はニヤつきながら平然と話す。禍々しいオーラが復活する日も近いだろう。
「ちゃんと常識のラインは守りますから。やるのはインスタとようつべのみ。それとコメントは受付けません」
「ツイートはしないのですか?」
「新米はこれだから。あれは炎上ツールでしょうが。コメント受付け無しも同じ理由よ。フォロワーが増えて交流が必要になったら別の方法を考えるわ」
「ソフィアさんにしてはちゃんと考えてますね」
「一言余計よ。けどネット戦略で一番の敵は炎上だからね。ましてや女神が炎上なんてヤバ過ぎるわ。それこそギリシャ政府から指名手配されるわよ」
それ以外の犯罪で日本政府に指名手配される可能性も忘れぬように。
それからの数日間は大変だった。アテナは忙しいので、当日に写真と動画を撮れるだけ撮って帰ってもらった。そして翌日からはゼウスへの報告に始まり、ギリシャ大使館での経緯説明等々てんてこ舞いだった。
そしてどうにか許可を得て、インスタとようつべを開設したのである。
「はあ。ソフィアはネット戦略にご執心だけどそんなに大事なのかしら」
「確かにネットの影響力は大きいです。特に若い世代には絶大な影響力を誇ります。ただネットの世界には膨大な情報があって、そう簡単には注目されないんですよね」
アンナはネット戦略自体は肯定しつつも効果には疑問を持っているようだ。
「二人はネットへの理解が浅いですね。まあ見てて下さいよ。上手く行けば開業資金も稼げますから」
「えっ、お金が稼げるの?」
「最終的には億単位を見込んでます」
「はあ? そんな大金無理に決まってるじゃない」
「女神様、大阪の繁華街でそれなりの飲食店を開くのなら大金が必要になりますよ。資金計画は念入りにやらねばなりません」
金銭感覚の乏しい私でも一億円が途轍もない大金なのは理解している。開店資金にはそれ程の大金が必要なのか。しかしネットで億単位の金が稼げる美味しい話など本当に存在するのだろうか。
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