第58話 女神様 背中を押される
「ソフィア、意気込みは買うけど、肝心の料理問題が解決出来ていないわよ。大衆食堂で優秀な料理人を雇ったんじゃ利益が出ないし継続性が確保出来ないわ」
「そこですよ、女神様。先程覚悟はありますかと聞いたのはその為です。メディア露出のアイコンだけでは済ましませんよ」
「何よ、そんな脅し文句には屈しないわよ。無茶振りなら却下だから」
暴走しないように注意しなければ何をするか分からない。
「別に無茶振りではありません。女神様、味に定評のある大衆食堂で働いて料理を覚えて下さい」
「えっ、働くの?」
「ソフィアさん、軽々しく言わないで下さい。女神様が食堂で働くなんてゼウス様もギリシャ政府も黙っていませんよ」
「そこは女神様の頑張り次第ですよ。いずれにせよ女神様を前面に押し出すお店なら、最低でも料理の監修は必須です。出来れば時々厨房に立って料理する姿を見せるべきです。その為には料理修行は避けて通れません」
料理に携わるのは
「食堂で働いて料理を覚えるのは異論ないわよ。元々興味があったし大歓迎だわ。それからゼウス様と政府には黙っておきましょう」
「くれぐれも報告は怠らないよう言われているではないですか。流石にダメですよ」
「だって面倒なんだもん。何だかんだで帰って来いって言うかも知れないわよ。子供たちとの約束も守れなくなるけど、アンナはそれでも良いの?」
「それは困りますけど……」
子供を引き合いに出したのは流石に卑怯だったか?
「アンナ、他人事みたいに言ってるけど、貴女も働くのよ」
「えっ、私も?」
「今後貴女は食堂経営が主な仕事になる筈だからね。しっかり学んできなさい」
「アンナも一緒に働きましょう。その方が私も気が楽だし」
形はどうあれ前に進むには料理スキルと食堂経営の知識は必須だ。こちらを進めつつ諸課題を解決していこう。
「どうですか女神様、これが私の実力です。では約束通り二週間日本を満喫させて頂きます。食費と宿泊費をお願いしますね」
「何言ってるの。私は解決出来たらと言ったのよ。まだ解決には程遠いわ」
「酷い、酷過ぎる。詐欺だ、ペテンだ、極悪非道だ~」
それは貴女でしょうが!
「仕方ないわね。明日下界に連れて行ってあげるわ。そこそこ良い意見だったしね」
「なら秋葉原に行きましょう。どんな場所か調査できるし一挙両得です」
「はいはい、秋葉原ね。どんな飲食店があってどんな人が行き交っているのか興味あるからそうしましょう」
ソフィアに部屋から出ないよう告げ、アンナと共にトヨちゃんの許に向かった。
*
トヨちゃんに会いに行くとダイコクさんとエビスさんの姿もあった。旬の食材を民から頂いたので持って来たらしい。
私は三人にソフィアの作戦についてどう思うかを聞いてみた。
「ふむ、先ずは日本で店を出して軌道に乗せ、ノウハウを会得するのですか。なかなか良い案だと思いますぞ。特に此度のように儲け以外を重視するなら必然でしょう」
エビスさんは好意的に受け入れてくれた。
「でも他国の神が日本でお店を経営しても良いものなのでしょうか。それから他の飲食店と競合するのも後ろめたいです」
「別に他国の神であろうと、日本の法に基づいて商売する分には何の問題もありゃせん。それに飲食店が他店と競合するのは必定じゃ。気にする必要などなかろうて」
ダイコクさんも背中を押してくれた。
「競合しても業界が活性化するなら、結果として全体が潤いますからね。加えてベスちゃんの店が人気になれば、食事の質や食卓の在り方に対する警鐘になるでしょう。それは業界の新たな財産となる筈です」
トヨちゃんは食物神の立場から賛同してくれた。
皆の意見から、女神たる私の飲食業界参入自体に問題はないようだ。
「けど日本の飲食店に対抗出来るのかしら。成功する絵が全然浮かばないのよね」
「ベスちゃんならやれると信じておりますぞ。まあ商売繁盛の神として助言するなら、他店に勝つのではなく己を磨きなされ。そうすれば客は必ず付くでしょう」
確かに他店に対抗しても意味がない。民と真摯に向き合うことこそ肝要だ。
「ありがとうございます。それで早速お願いなのですが、私が料理をアンナが食堂経営を学びたいのです。どこか紹介頂けないでしょうか」
「分かりました。幾つか候補を探しておきましょう。我々も協力は惜しみませんぞ。何せベスちゃんは我らが期待の星ですからな」
「その通りじゃ。新しい風を吹き込む救世主になってくれると期待しておりますよ」
エビスさん、ダイコクさんから身に余る言葉を頂く。本当にいつもお世話になってばかりだ。何とかこの計画を形にして恩に報いよう。
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