第3話 忘れて楽しむ
「…………リベル」
『なんだ?』
「これからどうしよっか」
『……………』
俺はリベルの食事が済んだ後、これからどうするかを話し合いながら森の中を歩き続けていた。
『何かやりたいことはないのか?』
「いや………やりたいことと言われても」
『せっかく貴様は力を手にしたのだから自由にやればよいではないか。なんだったら雄の理想であるハーレムでも作ればよいのではないか?』
「はー……れむ? なんだそれ?」
『簡単に言えば女を二人以上嫁にすることだな。数百年ほど前、我の宿った人間にいたのだが、我の力に溺れ、気に入った女をバレないようにあえて怪魔に襲われるよう誘導し、そしてヒーローの如くかっこよく救い出し女の心を虜にする。それを繰り返してだいたい嫁を十人以上も娶り――』
「しねえよそんな屑なこと!! 大体お嫁さんは一人じゃなきゃダメに決まってんだろうが! ていうか怪魔をあえて女に襲わせるとかどんなゴミ屑野郎だそいつ!」
『純情だな貴様。まあそ奴はその後も図に乗ってその悪事を続け、最終的にその悪事がバレ、娶った嫁全員に失望され見放され、そして終いには奴に恨みを抱いていた者によって暗殺された』
うん、自業自得だ。人を欺いて手にした幸せというのは必ず壊れ去るということを身をもって証明してくれたわけだ。
『他にも金の預け所を襲撃する強盗紛いのことをしたり、ただ暴力の赴くままに街を一つ破壊し尽くしたり、国そのものを滅ぼさんとする大虐殺を起こした者もいる』
「……………」
こいつの宿主ろくなのいねえじゃん。
共生型は宿主を洗脳する奴が多いが自分は違うみたいなこと言ってたけど、こいつホントはソッチの類なのか?
もしそうだったら俺こいつに洗脳される前に自害した方が――
『おい、それは辞めろ。我も死んでしまうだろう。貴様は我との適性が歴代でも群を抜いていて切り離すことができん』
「そっちのほうが良い気がするんだが………」
『ただそういう者たちもいたというだけだ。ハーレム云々はちょっとした冗談だ』
「冗談には聞こえなかったんですが?」
『む………とにかく、貴様の自由にしろ。我はただ貴様の支えになるしかできんからな』
こういうのも俺の心を油断させて洗脳するみたいな…………やばい、今になってこいつが信用できんのか分からなくなってきた。
というより俺のやりたいこと…………やりたいこと………
『…………………ん?』
駄目だ思いつかん。リベルを宿している俺がまともに働くなんてできるわけねえし、いっそこのまま隠居とか?
ていうかなんか一番しなきゃいけないことを忘れてるような……
「……あ~、駄目だ。マジで思いつかん」
『……………………』
「おいリベル、なんかもっとまともなアドバイスないのかよ~」
『……………………』
「……………リベル?」
あれ? なんかリベルが急に黙り込んで――
『すまん、少し身体を借りるぞ?」
「え? ………ぬわっ!?」
すると突然俺の顔以外の身体の部位が真っ黒に染まると、俺の身体が『勝手に』跳躍し、背の高い木の枝に着地し、そして身をひそめるように身体を伏せる。
「おいリベル! 急になに――」
『静かにしろ』
「は?」
『いいから』
「…………」
やけに低い声で喋るリベルに対して、俺は素直に言うことを聞く。
数分後、前方の方に何やら人だかりが見える。
「あれは……」
俺は目を細める。
そこには数十人ほどの武装した集団が森中を歩いていた。
「確かこの辺りだったか?」
「へい。情報によるとその怪魔は『虎に角が生えた』見た目をしていて色は『青』らしいですぜ? 討伐するために派遣されたいくつもの部隊を壊滅させた怪魔だそうで……」
「うげぇ、マジかよ……生きて帰れんのか俺ら……」
「まあ、そんな心配することはないだろ。なんてったって、今回こことは別の『第一部隊』にはイアポニア王国が誇る最強のガンナー、『
動きやすそうな戦闘スーツのような服を着ていて、剣や刀、銃などを装備している屈強な男たち……いや、中には女性もいる。
あの服装間違いない。昔俺を、親を殺した怪魔に殺されそうになったのを助けてくれた人もあんな感じの服を着ていた。
「怪魔ハンターだ…」
『怪魔ハンター……確かそれは貴様が憧れているとか言っていた……』
「ああ……そうだ……」
久しぶりに見たけどやっぱかっこいい。
『おい、そんな興奮して目を輝かせている場合ではないぞ? あの連中は恐らくさっき我らが狩った怪魔を討伐しに来ている』
「え?」
『あの連中は言っていた。虎に角が生えた見た目で『青色』の怪魔とな。聞こえなかったのか?』
「いや……こんな距離あるのに聞こえるわけないじゃん。てか確かにそう言ってたのか?」
『うむ、我は地獄耳なのでな』
「お前耳無いじゃん………って、そんなことはさておき、もしあの人たちが討伐しに来てるのが俺たちが狩った怪魔だとしたら……」
『まずいな。骨も残さず食い尽くしたとはいえ、地面に飛びちった血までは………しかも少々派手に狩ったから、あやつらがその怪魔がすでに討伐されていることに気づくのも時間の問題。なるべく早めにこの場を去ったほうが良いだろう。見つかったら色々面倒だ』
「だよな」
もし見つかったら色々尋問されるかもしれない。ていうか今俺の身体は真っ黒だから異形の存在扱いで殺されるかもしれない。
ここは見つからないように去ろう。
俺は立ち上がり、ハンターたちにバレないように、ゆっくりと木を降りようとする。
「よし、そうと決まれば――」
『音を立てるなよ? あ奴らにバレたら……』
「大丈夫大丈夫。俺結構運動はできる方だから心配しなくても――」
――バキッ!!
「『あ……』」
俺が踏み込んだ枝が大きな音を立てて折れた。
するとハンターたちが一斉に音のした俺たちの方に振り向き……
「ん? 何か聞こえたが……」
「隊長! あの木の上に何かいます!」
「なんだ、猿? にしては色が黒いし姿も……」
「もしや怪魔か!」
「総員! 戦闘準備!!」
ハンターたちが一斉に武器を構え、俺らの方に向かってくる。
『やっちまったああああああ!!!!』
『フラグだったか……』
俺は心の中で叫んだ。
『まあいい。今の貴様ではあ奴らから振り切れんから、また貴様の身体を借りて逃げる。音を上げるなよタスマ……』
「は?」
リベルがそう言った次の瞬間、俺の肉体がさっきよりもさらに黒く、そして変化していく。
「うお、お、おお……」
俺は変化した自分の身体を見てみる。
体格が増し、腕が四本に増え、頭部に触れてみると、二本の角が生えている。そして頭の上に浮いている針が生えたリング。
「………この姿…」
この姿、大きさは人間よりちょっと高いくらいだけど、三年前の……
「隊長! 何やらあの生物に変化が!」
「お、おい………なんだよあれ……」
「あれは怪魔…………というよりなんか……」
木の真下あたりまで迫ってきたハンターたち。
「ゆくぞ」
リベルはそう言うと、今立っている枝を強く踏み込む。
『ッッ!!!? 速っ!!』
そして次の瞬間、一瞬で木の下におり、ものすごいスピードで怪魔ハンターたちを抜き去りながら森の中を走り抜ける。俺はそのあまりに人外じみたスピードに驚いてつい声を漏らしてしまった。
「なっ!」
「は、速い!! おい、どこ行った!」
「あっちだ、あっちに行ったぞ!」
「追え! 逃がすな!」
後ろからハンターの声が聞こえる。
「第一部隊!! そっちに行ったぞ!!」
ん? 第一部隊?
ハンターの誰かがそう叫ぶと、リベルが走っている遥か前方の方から、三十人ほどのハンターたちがこちらに向けて銃を構えているのが見える。
他にもいたのか!
『り、リベル………これやばいんじゃ……』
「……………」
そしてそのハンターの中の一人、明らかに他のハンターたちとは一線を画した雰囲気を纏っている女が立ち上がり――
「標的を確認。あれは……怪魔か? 聞いていた情報とはずいぶん違うが………まあいい。相手が怪魔ならやることは変わらない。第一部隊、銃撃用意!!」
ハンターたちがその声と共に銃をこちらに向け、狙いを定める。
「撃て!!」
次の瞬間、まるで数十ものレーザービームのような光線が俺たちのほうにとんでもない速さで向かってくる。
だがリベルはそれを――
「………
俺では目で追うことすらできない光線を、最小限の動きだけで躱す。
「な、なにぃ!?」
「た、隊長……躱されています」
「あの数の光線を……あの怪魔一体……」
「……くっ、怯むな! 撃ち続けろ!」
その後もハンターたちはリベルに銃を撃ち続けるが――
「……遅い、遅すぎるぞ……あの猫を狩りに来たのだから少しはできると思えば……」
俺なら気づいたら撃たれていたというレベルの速さで向かってくる光線を、リベルは溜息を吐きながら避け続けている。掠りもしない。
「そ、そんな……」
「隊長……」
そんなリベルに銃を撃ち続けているハンターたちは、まるで信じられないものを見ているような目をしている。
「なるほど………ならお前たちは下がれ。私がやる」
「た、隊長!?」
するとさっきまでハンターたちに指示していた女が、背中に背負っていた他のハンターたちが所持しているものよりも数段強力そうな銃を構える。
『うわ……なんかやばそうだぞあれ……』
そして――
「発射」
さっき飛んできた光線よりも数倍太く濃密なレーザーが、その銃から発射される。
「……ふん」
だがリベルはまたそれを軽やかに回避。
「隊長、躱されてます!」
「いや、まだだ……」
隊長と呼ばれている女は、放った光線がリベルに避けられても、まだ冷静のまま。
「何か狙っているな……」
リベルがハンターの女の様子を見て、そう呟く。
「ん?」
すると次の瞬間リベルは突然後ろに振り返る。するとそこには眼前にまで迫っていた――
『ぬわっ!!』
「ほう……」
さっき避けたはずの光線がリベルに向かってきていた。だがリベルはその光線を間一髪で避ける。
「なるほど……『跳弾』か………」
しかもそれだけではない。
ありとあらゆる方向から、あの女が放った光線がリベルに向かってくる。
「光線が跳ね返る向きを計算し、まるで磁石のように我に向かってくる程の精度……歪な形の多い森の中でそのような芸当ができる人間がいるとはな………間違いないな………あの女がさっきのボンクラ共がぼやいていた『百殺の銃皇』とやらなのだろう……だが……」
すると突然リベルは足を止め……
「ん? 止まった?」
「お? これは隊長の銃の腕と威力にビビって動けなくなっちまったかありゃ?」
「よっしゃ! ならこのまま――」
止まったリベルを見て、一瞬ハンターたちがリベルを嘲笑う。
だがリベルは……
『え? リベル?』
四本の腕を目に見えない速度で振るい、四方八方から向かってくる光線を相殺する。
「「「「「ッッ!!!!?」」」」」
まるでリベルの周りに見えない壁があるような光景に、あの女含めたハンターたちが目を見開いて固まっている。
「あの女の腕に、銃とやらの『性能』が追い付いていない………もったいないものだな……もっと威力を出せるものならば、我に掠り傷くらいはつけられるかもしれんのに……それともこの森の被害を想定してあえて加減をしているのか?」
360度あらゆる方向から飛んでくる、もはや流星群と表現しても良いほどの大量の光線をリベルは軽々と捌く。
「ふっ、だが楽しいではないか。これほど楽しい遊戯は何百年ぶりか……」
うん………すごい…………ホントに………マジですごいんだけどね?
『リベル…』
「なんだ? 今いいとこなのだから――」
『お前さっきなるべく見つからないようにここを去ろう的なことを言ってたのになんかハンターたちに姿見せまくってて大丈夫なのか? もうハンターとの距離も俺らの姿見えるくらい近いけど……』
「…………ハッ!」
『いや、『ハッ!』じゃねえよ……』
俺の問いにリベルはハッとする。
こいつあれだけ俺に見つかるなよとか言ってた気がするんだが姿見せる事しまくってますよね?
銃を撃ってくるハンターたちとの距離も結構近いしなんならもうリベルの全貌大公開してしまってるし。
あと俺……そろそろ我慢の限界かも………
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