第23話 自警団壊滅の危機!?


 自警団第33支部前に馬車が停まり、団員たちが協力してそっと積荷の箱を降ろしていた。ジーンは意気揚々で指揮をしていた。


「気をつけろよ! それは大事な証拠品だからな。倉庫に入れて施錠して、見張りを置くんだぞ!」



 ケルンの投げたレンガは見事にドローンに命中し、機体は空中で爆発していた。付近の住民に怪我はなく、民家にもほとんど被害は出なかった。自警団は機体の破片の回収に成功していた。

 マルンとアズキはマリーンとヨウの無事を喜びながら、居酒屋で帰りの馬車からおろされていた。



 ジーンはひととおり指示し終えると、ケルンと談笑しているマリーンに近づいた。


「ジーン! ありがとう! お手柄だったよね。」


 ジーンはいきなり、マリーンにつかみかかった。ヨウが慌てて馬車から飛び降り、ふたりの間に割って入った。


「待ってよ、ジーンさん!? どうしたの?」


「てめえは引っこんでろ! 何がお手柄だ。マリーン、敵とひとりで斬り合った挙句に爆発に巻き込まれる寸前だ? ふざけるな! コナもいねえし、俺がどれだけお前を心配したかわかってんのか? 俺が…俺が…。」


 そこまで言うとジーンは言葉を発する事ができなくなり、泣き出してマリーンに抱きついた。


「うわっ。すごい筋肉ね!」


「ふざけんなよ、ふざけるなってマリーン…。」


 マリーンは優しくジーンの背中をさすり、しばらくじっとそのままにしていた。



「あのー? やっぱり君たちつきあってるんじゃ…。」


 ヨウの指摘に、ジーンは体中を真っ赤にしてパッとマリーンから離れた。


「ば、バカやろう! くだらねえ事を言うんじゃねえ! 俺とマリーンは幼馴染なんだ、姉妹みたいなもんだな。」


「ふう~ん。」


 ヨウは疑いの眼差しをジーンに向けた。


「じゃあさ、僕がこんな事をしても平気?」


 今度はヨウがマリーンに抱きついた。マリーンは悲鳴をあげた。


「てめえ! おいケルン! 強制排除だ!」


 ケルンはジーンの命令に頭をかいて戸惑いながら、ヨウを軽々とつまみあげた。空中でジタバタするヨウの姿に、団員たちの間に笑い声がわき起こった。


「マリーン、ミサキ団長にも報告しなきゃな。だがまずは医務室で手当だ。」


「うん。ありがとう、ジーン。」


 マリーンとジーンが支部に入りかけた時だった。小さな人影が通りの向こうから走ってきた。


「あニャ! 大変ニャ! 大変ニャ~!!」


「だから、いつも騒がしい奴だなお前はよ。」


「本当に大変ニャ!! だ、団長がニャ、ミサキにゃんがニャ!」


 パニック状態のマチルダに、マリーンが駆け寄った。


「ミサキ団長がどうかしたの!?」


「ミサキにゃんが逮捕されたニャ!!」


「な、なんですって!?」


 マリーンは自分の耳を疑い、思わずマチルダを強くゆすぶってしまった。



「自警団のみなさま。ごきげんよう。」


 あまり聞きたくない声が聞こえてマリーンが嫌々ふりむくと、そこには全身黒ずくめの人物が立っていた。


「フロインドラ魔女商会長…。」


 フロインドラのまわりにはズラリと同じ黒ずくめの集団が立ち並んでいた。全員の帽子に赤いリボンがあり、ほうきやブラシを手にしていて臨戦態勢のようだった。


「これはなんの騒ぎなの? あたし達は自警団よ!」


「わかっておりますわ。我々はその自警団を捕らえに来たのです。おとなしくなさい。」


 何人かの自警団員が武器を抜きかけたが、マリーンが手をあげて制した。


「マリーン、どうする? 何がどうなってんだ?」


「あたしもわからないわ、ジーン。」


 マリーンは歯を食いしばっていたが、また手をあげた。


「わかったわ。全員、武器を捨てて。」


「マリーン!?」


「仕方ないよ、あの数の上級魔女たちを相手にしたら必ず死人が出るよ。」


 自警団員たちは悔しそうに次々と武器を捨てて魔女に拘束されていった。フロインドラは終始高笑いをしていたが、黒塗りの馬車が静かに到着すると何かの呪文を唱えた。


 マリーンとジーンの手首に手錠のような光る輪が現れた。


「さっさとお乗りなさいな。マリーン支部長さんにジーン副支部長さん。」


 フロインドラは楽しくて仕方がない様子だった。相手に殴りかかろうとするジーンを、マリーンは懸命になだめた。

 ヨウは急な事態に右往左往していたが、マリーンのあとについて馬車に乗ろうとした。


「何をしているのですか、あなたはこちらですわ。」


「マリーンさん! やだ! 助けて!」


「ヨウさん!」


 ヨウは両側を魔女に挟まれて、別の馬車に放り込まれてしまった。フロインドラはまた高笑いをし始めた。


「フロインドラさん! ヨウさんをどうするつもり!?」


「決まっておりますわ。わたくし自らがじっくりと尋問するのです。ああ…楽しみで楽しみでなりませんわ。」


 フロインドラは熱に浮かされたような目で舌なめずりをした。マリーンはカッとしてフロインドラにつかみかかった。


「こら! もしもヨウさんに何かあったらタダじゃおかないから…あいたたたたた!」


 フロインドラが涼しい顔で呪文を唱えると、マリーンの手首の光の輪が赤くなり、手が締めつけられた。


「大丈夫か、マリーン!」


「あー楽しい! 楽しすぎますわ! さあ、この自警団支部の建物はこれより魔女商会が接収しますわ! あとは頼みましたわよ、セイモンドさん。」


 フロインドラが宣言すると、魔女の中から背が高く眼鏡をかけた者が進み出ておじぎをした。


 マリーンとジーンを乗せた馬車は出発し、マチルダがそのあとを眺めていた。


「ここはボクの出番ニャん!」



 外の出来事を窓から全て見ていた人物がいた。自室で休んでいたチグレだった。


「そんな…どうしてマリーンさまが? 大変だ。」


 チグレは急いで交信用水晶球をとり出すと相手をどなりつけた。


「いったいどうなっているんだ!」


「すいやせん、すぐ調べやす。」


 野太い声の人物はひたすら謝り、交信を終えると憎々しげにつぶやいた。


「けっ、偉そうにしやがって…。」




 魔女商会本部館の地下牢の暗闇の中で聞こえてくるのは水滴が落ちる音や、得体のしれない生き物が鳴くような声だけだった。


 わずかな水と食べ物だけを与えられて地下牢に閉じ込められ、マリーンはあまり眠れなかったがジーンはいびきをかいて爆睡していた。


(ジーンとふたり…なんだか子供の頃を思い出すなあ。)


 マリーンはジーンにそっと寄り添った。


「マリーン、また眠れねえのか。」


「ごめんね。起こしちゃった?」


「大丈夫だ。そのままでいいぜ。」


 しばらく無言が続き、遠くから何かが唸る声がふたりの耳に聞こえてきた。


「コナは大丈夫かな?」


「あたりまえだ。すぐに、ただいま戻りました、って真面目顔で帰ってくるだろうよ。」


「そうね。ねえジーン、覚えてる? 孤児院でもこうしてよく眠ったよね。」


「ああそうだな。お前は夜がこわいっ言ってなあ。トイレにもついていってやってたんだぜ。」


「ふふ。ジーンはあたしのお姉さんだね。…ごめんなさい、ジーン。あたし、あなたの気持ちもわからずに、責任から逃げようとばかりしてた。」


 ジーンは手探りでマリーンの髪をなでた。


「マリーン、もういいんだ。俺も悪かった。コナが心配なのは俺も同じだしな。ただ、これだけは覚えておいてくれ。」


「なあに?」


「どんなことがあろうと、俺はお前を全力で支える。だから安心して支部長をやってくれ。」


「ジーン…ありがとう。」


 安心感がマリーンを包みこみ、彼女はそのまま眠りについた。


 


 コナがベッドで寝ていると、低い話し声が聞こえてきた。


「どういうことだ? なぜ阻止されたのだ。…自警団? 言い訳をするな。元々そちらからもちかけてきた話ではないか。いい加減に貴様達のボスに会わせろ。お前では話にならん!」


 クロネは交信用水晶球を投げ捨てると、忌々しげに何度も踏みつけた。肩で息をしているところをコナにじっと見られて、クロネは取りつくろうように微笑んだ。


「何か問題ですか?」


「いや、作戦に少し遅れが出ただけだ。それよりも、早くトマリカノートの自警団について教えてくれないか?」


 クロネはコナのベッドの方に近づいた。


「それ以上、ベッドに近づいたら何も言いません。」


 クロネが歩みをとめたのを確認してから、コナは話し始めた。


「その前に、これだけは教えてください。あなたの正体を。」


「君はとっくにわかっているのだろう?」


 コナはうなずいた。


「はい。あなたの正体は…。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る