第22話 爆発の怪異を阻止せよ!


「いったいどういう事なの!? ヨウさんの世界の機械がなぜここにあるの?」


 マリーンの疑いの目に、ヨウは焦りはじめた。


「待って、誤解だよ。僕はそれには本当に無関係だし、急がないとまた爆発が…。」


「爆発の怪異のこと!? あの機械が関係しているの!?」


 マリーンは混乱した様子で、頭を抱えてうずくまってしまった。


「全て話して! じゃないとあたし、何が何だかわからないよ。」


「マリーンさん、落ち着いて聞いて。あくまで僕の推測なんだけど。」


 ヨウはしゃがんで、マリーンをいたわるように肩に手を置いた。


「あれは戦争用のドローンで兵器なんだ。たくさん爆弾を積んでいて、目標に体当たりして破壊するんだ。急がないと、また街で爆発が起きてしまうよ。」


「そんな…誰がいったい何のために?」


「それは僕にもわからないよ。とにかく、あれを阻止しようよ。」


 マリーンはヨウの顔を見上げ、目を見つめてから立ち上がった。


「わかった! ヨウさん、疑ってわるかったわ。あたしはあなたを信じる! 急ごう!」




 アズキとマルンと団員を乗せた自警団の馬車が通りを疾走していた。ジーンは交信用水晶球であちこちの支部に連絡をしていた。


「了解、ありがとよ。」


 ジーンはアズキとマルンに笑いかけた。


「公園まわりに広範囲に自警団員を手配済だ。ふたりとも、ありがとうな。」


「マリーンさまとヨウさまがご無事でありますように…。」


「心配ないって、マルン。」


 団員の中にいたケルンが、涙ぐむマルンにハンカチを渡した。


「ありがとう、巨人さん。」


「うほっ。」


「なにを赤くなってやがるんだ。」


 団員たちの笑い声が響き、馬車は更に速度をあげた。




 空中の飛行物体は住宅街へと入っていった。血相を変えて走るマリーンとヨウを住民たちは不思議そうに見ていた。


「みんな気づいていないみたい。」


「空なんか普通はあまり見ないからね。」


「マリーン支部長!」


 反対側から青いマントの自警団員が走ってきて、マリーンに水晶球を手渡した。


『マリーン! 今どこだ!』


「ジーン! ごめんなさい、あたし…」


『それは後だ! 何が起こってんだ!?』


 マリーンは手短に、爆発の怪異の手がかりをつかんでヨウと共に追跡している事を説明して現在地を伝えた。


『なんだって! わかった、すぐそっちへ行く!』


 交信を終えたマリーンが通りを曲がると、大きな邸宅が立ち並ぶ高級住宅街に出た。マリーンが目を凝らすとその一角に、小綺麗なレンガ作りの立派な家が建っていた。


「どろーんの目標はあれね!」


「なんでわかるの?」


 ヨウの疑問にマリーンは得意げに答えた。


「あたし、今までの爆発の怪異の資料を全部読見込んだわ。爆発したのはあんな風な無人の家だった。ほら、あの家もこんな昼間なのに鎧戸が全部閉じてる。」


「なるほどね!」


 ふたりは走る速さをあげて家の前にたどり着き、扉をガンガン叩いたが応答はなかった。ヨウが空を見てつぶやいた。


「あのドローン、迷っているのかな?」


 マリーンが水晶球で位置をジーンに伝えていると、ヨウは遠くの空に機影を見つけた。


「ど、どうするの? マリーンさん、こっちにまっすぐに向かってくるよ!」


「なにか、なにかを投げて壊そう!」


 マリーンは塀の裏に落ちていたレンガを拾い集めはじめ、ヨウも手伝ったが弱音をはいた。


「だめだよ、投げてもとても届かないよ。」


「こ、根性で当てる!」


 マリーンがレンガを投げたが、目の前の歩道に落ちて割れ、大きな音をたてた。通行人がびっくりして後ずさった。


 ついてきていた団員が弓で機体を狙ったが、矢が当たってもびくともしなかった。


「どうする!? マリーンさん、どんどんこっちに来てるよ!」


 ヨウがマリーンを盾にするようにしがみつき、マリーンはもがいた。


「ち、ちょっと? やだ、どこにさわってるの!?」


 ふたりがもめていると、団員が通りの向こうを指差した。


「応援が来ました!」


 自警団のマークがある馬車が急停車して、ジーンを筆頭に団員たちが次々と飛び降りてきた。最後に巨人のケルンがマルンとアズキを抱えて慎重に降り立った。



「うわあ。あの人も団員なの? 大きいなあ。」


 ヨウが感嘆の声をあげたのに対して、マリーンが何かを思いついたようだった。


「そうだ! ケルン! はやく! あの飛んでる変なのにこれを投げて!」


 マリーンはレンガをケルンに放り投げた。ケルンはレンガを受けとると、首をかしげた。


「マリーン支部長どん、おもいきりやっていいだか?」


「やっちゃって!」


 ケルンは頭をかくと、意外にも綺麗なフォームで振りかぶり、目標めがけて力の限りレンガを空中に投じた。




 夜が近づくにつれて、コナは果てしなく気分が落ち込んだ。あの高慢なクロネは間違いなく、ベッドで休む時刻になると自分に何らかの欲望を抱いて迫ってくるに違いなかったからだった。


「まったく人間という生き物は…。」


 豪華だが無言の夕食のあと、コナは鏡台の前で髪をとかしながらため息をついた。

 コナ自身、そのような行為に興味が全くないわけではなかったが、もしもそういう時がくるとしたらそれは絶対に、心から愛する者だけが相手だと決めていた。


「あの人間がその相手ではないことだけは間違いないですね。」


 用意された部屋着はどれもこれも高価だがかわいいデザインで、コナは自分には全く似合っていないと感じてまたため息が出た。


(コンコン!)


 コナの予想通り、ドアがノックされてコナは顔をしかめた。


「帰って下さい。この部屋には誰もいません。」


「君はそんな冗談も言えるのだな。」


 クロネが入ってきて魅力的に微笑んだ。コナは髪をとくふりをして、慌てて目を逸らした。


「部屋に入って良いとはひと言も申し上げていませんが。」


「自分の伴侶の部屋に入るのに許可はいらないだろう。」


 相変わらず濃紺の制服を着たクロネはコナの背後に立ち、コナの肩に手を置き鏡をのぞきこんだ。


「美しい。本当に美しい。さて、どうすれば自分は君の心をつかむことができるのかな?」


「勝手に決めて盛り上がらないで下さい。」


「焦らせるのも君の策か?」


 コナは身をよじり肩から手を引き離した。


「本当にやめてください。グーで殴りますよ。」


「君になら殴られてもいいが。」


「そういう趣味の人間なのですか?」


 相手は笑みを絶やさず部屋を横切り、ベッドの端に座った。


「本当は今夜はここで君と休もうと思っていたのだが。」


「吐いていいですか。」


 コナの口撃を無視して相手は続けた。


「緊急事態が発生してね。急遽、トマリカノート港に戻ることになった。君にとっては朗報だろう。」


 コナの耳がピクリと動いたが、そのまま彼女は冷静さを保った。無言のコナを観察するようにしながらクロネはさらに続けた。


「油断していたよ。まさか地元の自警団にしてやられるとはな。君にはいろいろ聞きたいものだな。」


 コナは驚いてクロネを見つめた。


(マリーン支部長、ジーン、みんな…ありがとう。何があったのかはわかりませんが、これで脱出のチャンスができました。)


 コナは深呼吸すると、笑みを浮かべた。


「なにが知りたいですか? お力になりましょう。」


 クロネは前のめりの姿勢になった。


「自警団の人数、装備、編成、指揮系統などだ。それから…もっと君のことも知りたい。」


 コナは足を組み、なるべく妖しく見えるようにさらに微笑みながらうなずいた。


(かかりましたね。逆に私が手なずけてあげましょう。)

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