Ⅵ‐4

 ラーメンの食い逃げから数日後、カズさんがヨッチの妹でパンツを盗んだ奈緒子に会いたいって言い出して、ヨッチの家に俺とカズさんとバンブーで集まることになった。


 最初はみんな集まるのが久しぶりだったからか、お互いの近況を話したりゲームとかしてたんだけど、せっかく珍しく4人が集まったのに普通にゲームしてたんじゃサブいってカズさんが言い出して、カズさんがヨッチの家をごそごそし始めた。


 ほんで、本棚にあったリルケの詩集とハロウィンの時の残骸ざんがいらしきバットマンのかぶりものと奈緒子の部屋からスクール水着を持ってきて「ババ抜きで負けたやつ、これ着てイオンの前で詩を朗読な」って。


「カズさんが水着を着たいだけじゃないですか」ってヨッチが猛反対したけどカズさんが「ヒリヒリしたいだろ?」とか「生きてる実感、感じたいんだよ」とかつまんない能書き垂れ始めて、だんだんやらないとつまんないやつだみたいな空気に持ってって、俺がまずそれにほだされて、バンブーが負けなきゃいいって自分に言い聞かせ始めてヨッチがそれ見て諦めて折れてババ抜きが始まった。


 ババ抜きは結局言い出しっぺのカズさんが負けて、罰ゲームをやることになったんだけど「これ着たままイオンに行くの? 着くまでに捕まるよ、俺」ってこの期に及んでごねだして、ヨッチが「スクール水着を下に着た状態でイオンの前まで行って脱げばよくないですか?」って論破した。


 で、カズさん、イオンの前で服脱いでスクール水着になってバットマンのかぶりものかぶって詩を朗読し始めたんだけど、真冬にちんこがもっこりしてるスクール水着のパンチ力はヤバい。


 カズさんが「寒い」って震えながら言うだけでウケた。唇をブルブル震わせながらそれでもカズさんは詩を朗読してたんだけど、人が集まってきて、遠くの方でパトカーの赤いランプが見えたからみんなでチャリで逃げた。


 逃げてる途中もカズさんはスクール水着にバットマンのかぶりものしたままで、食い込んだ水着からこぼれたケツがプリプリしてた。


「寒いから服着たい」とか「恥ずかしいよ、俺、恥ずかしいよ」とかうるさかった。「みんなが俺を見てくる」とか、もうカズさんが何を言っても面白い感じになっちゃって笑ってペダルに力が入らない。


 何とかヨッチの家に着いてカズさんが着替えようとしてたら、そこを奈緒子に目撃されて、また奈緒子にバチギレされてたけど、俺達はカズさんをちっとも助けなかった。


 この人は、きっとそういう星の下に生まれているんだと思って放っておいたんだけど、無関心な俺達に向かってカズさんが「俺の気持ち考えたことあんのかよ!」って叫んで、みんな笑った。魂の叫びは人を笑わす。確かに考えてなかったし冷静に考えてみると、一生ものの汚点だし、トラウマになってもおかしくない。でも、カズさん見てるとあんまりかわいそうに見えなくてしばらく笑ってた。


 その後、何かあると「俺の気持ち考えたことあんのかよ」って言うのが俺達の間で大流行した。

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