Ⅴ‐4

 西島とデートがしたくてしたくてしょうがなくて、でも結局デートに誘えずじまいだったんだけど、西島が受験用の参考書を買いたいみたいなこと言ってて、参考書なんかアマゾンで買っちゃえばいいのにって言ったんだけど、実際に色々見比べて自分に合ったのを選びたいらしい。そんで「じゃあ、俺も行く」って柏までついていくことになった。


 でも期待していたラブコメ展開は一切無くて、柏に着いたらマジで本屋に直行したし、西島が英語と数学の参考書を選んでる間、俺は暇で最初は漫画コーナーを見て回ってたんだけどそれも飽きて、海洋生物とか動物の写真集とか眺めて暇潰ししてそれでも時間が余って退屈になって「そろそろ帰らない?」ってちょっと聞いたら「だから、私は選ぶの長くなるから櫻井は暇だよって前もって言ったよね?」とか「そんなに暇なら帰るか外で待ってて」とか言われてちょっと喧嘩になって、俺は女子との買い物は忍耐がいることを知った。


 ほいで、ようやく西島が参考書を買って「せっかくだから飯でも食ってこうよ」って言ったんだけど「お金無いからこのまま帰る」って言われてションボリしてた帰り道に、階段の踊り場のとこで、見るからにガラの悪い同い年ぐらいのやつらが三人、地べたに座り込んで道をふさいでて、しょうもないことペチャクチャ喋ってた。


 西島に「向こう行こう」って言われて俺も回り道になるけどしょうがないかって素直についてったんだけど、それを見てたのか何か知らんけど「ダッセェ」とかでっかい声で言ってそいつらが笑ってるのが聞こえてくるわけですよ。


 めっちゃイライラしたんだけど西島に「帰るよ」って言われて我慢してそのまま帰ろうとしてたんだよ? でも歩いてる途中で背中に靴を投げつけられてさ、靴投げつけてきたバカが「ごめん、靴が脱げちゃった。持ってきて」って言われたんですよ。


 ここで無視しても「無視すんなよ!」とか絶対に何か言ってくるじゃん? それで絡まれても面倒だから俺はそいつのきったねえ靴を泣く泣く持ってった。そんで靴をそいつに渡して後ろ向いた瞬間にまた俺に向かって靴を投げてきてさ、それが頭に当たってブチキレたわけです。


 ゲラゲラ笑ってるそいつの顔を踏んづけたし、頭蹴っ飛ばしたし、地べたに座ってた他の二人を、ぶん殴った。ぶん殴って、髪をわしづかみにして壁に打ち付けて、もう一人のやつは投げ飛ばしてコンクリートにたたきつけて、寝転がってる顔面を蹴っ飛ばした。靴投げてきたやつは階段から突き落としたし、突き落としたそいつ追って俺も階段駆け下りて一番下まで転がったそいつ目がけてジャンプして腹を踏んづけた。蹴った。蹴り飛ばしてかかとで顔踏んづけて、腹を蹴って裏返ったら、今度はまた背中蹴っ飛ばした。馬乗りになってめちゃくちゃに殴りつけてたら西島が視界に入って、その時に気付いたんだけど俺は体中が異常なくらい熱くて汗でぐちょぐちょになってて肩で息をしてた。


 西島と目が合って、何か言おうと思ってたんだけど言葉が出なくて、その間に「テメェ、この野郎!」ってヤンキーの仲間みたいなのが一人向かって来て、俺は何も言わないで「帰れ」って感じで西島に向かって顎でしゃくってうながした。


 三人の時は全員が座ってたしいきなりだったから意外とすんなりいったんだけど、今度は真正面からなのと、そいつ自身が単純に強くて苦戦した。一方的な展開じゃなくて、お互いに殴って殴られてで、最後、階段を背にしたそいつを蹴り飛ばして転げ落としてうずくまってるとこボコボコにして何とか勝ったって感じだった。


 喧嘩が全部終わった頃には西島はとっくに帰ってる。拳の皮がベロベロにめくれてるしあちこち痛いし、口の中が鉄臭い血の味でいっぱいで、それのみ込むの気持ち悪いから道端にペッぺぺっぺ吐きながら歩いてたら「おい、そこのヤンキー」って声をかけられて、まだ仲間がいたのかよってウンザリした。


 西島とは今日のことで本当に疎遠になるだろうし、体はボコボコだし最悪だ。何か今の状況にめっちゃ腹立ってきて「あん?」って感じで振り返ったら、楢崎が笑ってた。

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