Ⅴ‐3
天の与うるを取らざればかえってその
大丈夫、俺ならいける。スベったら地獄のパンダメイクだってやってのけたじゃないか。変に意識したりせずに、失敗しても何度だって西島をデートに誘っちゃえばいいのだ。
「茨城に
別にそういう雰囲気になったら行くし、そうじゃないなら無理に誘わない。これだ。これこそがモテるやつに共通するスタンス。何と言っても余裕がある。俺だって思いつくことならできるのだ。
あまり綿密に計画を立てるとイレギュラーに弱いから、あくまで大まかに何を話すかを考えておいて、あとは臨機応変に対応する。面白キーワードを何個か用意しといて面白ツッコミパターンをぶっこめばいいんでしょ?
リハーサルはばっちり。あとは西島と一緒に学校帰ってる時に、大して興味がない映画でも見たい見たいって言って誘っちゃえばいい。
脳内シミュレーションはばっちりだし、心の準備もばっちり。ただ実際にやってみるとこんなん思ってたんとちゃうってなった。「そういえば西島って普段、家では何してるの?」とか「息抜きしてる?」とか「最近、面白い映画やってるのかな?」とか言っても、ぜーんぜん手応えが無くて、逆に「櫻井は受験、ホントに大丈夫なの?」とか聞き返されて、めっちゃ困った。俺は読み書きと掛け算ができたら合格するって言われてる高校に行く予定だったから受験の心配なんて、これっぽっちもしちゃいない。
どうせ、どっかの適当な高校入って3年間遊んだら、それまたどっかの適当な会社に入って働くんじゃないの的な。それかもしくは適当な高校通ってるうちに何か自分の天職と巡り合えて、その天職に向かって頑張りだして、出世して天下に風雲を巻き起こす男になるとか。
俺は、ヨッチや西島ほど頭も良くないし、部活を辞めてなかったとしてもバンブーみたいに柔道で推薦もらえるほどでもない。このままだと、きっと将来に大きな差がつくっていうのだけは分かる。だから、あんまり将来のことも受験のことも考えたくなかった。
認めたくないでしょ? 自分と友達とか好きな人が別々の道に進むことになるのって寂しいじゃん。百歩譲って、別々の道に行くとしても、ヨッチやバンブーと対等っていうか、今みたいな接し方じゃなくて気を使われながらじゃないと接することができなくなるような将来は嫌だ。
今だから思うんだけど、俺がグレたのはたまたまなんかじゃなくて必然だった。バカで調子こきの目立ちたがり屋で喧嘩好きだったから。それに俺にはヤンキーの素質があった。それ以外に何も無かった。ヤンキーになることだけが、ヨッチやバンブーと対等になれる唯一の手段だった。
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