Ⅴ‐2

 図書室での一件以来、修学旅行以降にできた距離感は一気に縮まって、俺と西島はまた図書室で勉強するようになった。


 ただこの辺じゃトップクラスの進学校を受験する西島と5教科で200点取れれば合格確実と言われてるバカ高を受験する俺とでは勉強に対する気持ちにかなり差があって、せっかく二人になれたこの状況で俺は勉強になんかにうつつを抜かしてらんなくて、西島にどうやったらちょっかい出せるかばっかり考えていた。


 何か一発かましたいなって思っちゃった日があって、西島が勉強に集中してる間に俺はトイレに行って両目と鼻をマジックペンで黒く塗ってパンダっぽくして、ドンキで買ってきた猫耳のカチューシャ着けた後に何食わぬ顔で席に戻った。


 ほんでパンダメイクをしたまま何食わぬ顔でずっと勉強してて、1時間くらいかな? 俺も自分がパンダメイクをしてるのを忘れた頃に西島が「うわっ!」って驚いてて俺も忘れてるからナチュラルに「どうしたの?」って聞いたら爆笑された。


「何してんの」って言われて真剣な顔で「すまない」って早口で謝ったら笑って「バカじゃないの」とか「こっち見んな」って言われたから、かわいこぶった顔で目をパチパチさせてあおったら西島が悔しそうに笑った。


 何言っても何やっても面白いみたいな無双状態に入って勉強にならなくなった西島が「お願いだからその顔洗ってきて」って言ってきて「ごめん、このマジック油性なんだ」って言っただけでもまた西島が笑った。


 しばらく笑ってて、ようやくおさまった西島が「もうさ、受験生なんだからちゃんと勉強しようよ」ってあきれた顔して言ってきて俺が普通に「うん」って返事したら勝手に西島が自爆して噴いた。


「いや、今回は真面目にしてたからね」

「分かってるけどさ」


 笑いを静めるために深呼吸を始めた西島がようやく落ち着いた頃合いを見計らって、床に正座して上目遣いで待ってたら西島は笑ったけどややウケで「もう帰る。そうやって、ずっとふざけるんでしょ」って怒って教科書片づけ始めたから、俺は体をくねくねさせて近づいたら西島がまた笑った。


「今日は勉強やめて帰ろう。俺もふざけるのやめるからさ、怒んないって約束して」

「うん」


 そう言って西島は怒らないって約束したのに帰り際には「櫻井のやってることマジでキモいから」とか色々とキレてた。


 前日にどうやったらパンダっぽくなるかメイクの練習したし、ドンキでヒョウ柄のカチューシャは300円で売ってたけど、よりパンダに寄せるために黒耳の1000円のカチューシャ買ってよかった。西島の笑った顔がいっぱい見れてよかった。

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